コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

2 ~小説は大人の読み物です~

「こちらの彼、隣のマネージャーのカワニがライブハウスの事務局から一報を受けます。彼は私の仕事場である収録スタジオで、航空会社jafの女性担当者と打ち合わせの真っ只中でした、搭乗時における混乱等の対処についてです。担当の方には隣室で待っていただくよう退出を促します、おそらく彼は代わりの会場をすぐに見つける腹積もりだったのでしょう。当てが外れ……、私がしゃべっています。ここは歌舞伎の舞台ではありません、掛け声を私は許可したでしょうか?エンジンのように息をついたからといって、稼動は止まってはいないのです。続けます。痺れを切らせた女性担当者はレコーディング室に顔を出しました。立て込んでいるようならば、今日は出直す、今日中に時間が取れなくても近日中でならば、打ち合わせに支障は出ない、女性はそのように伝えた。私は閃きました。確認作業は実にスムーズに進みます。担当者を通じて飛行機を貸しきった場合の費用を概算で聞きだし、続いて私のポケットマネー及び事務所が捻出可能な金額を臆面もなく晒します。私は床に座っていました、ペルシャ絨毯の上です。マネージャー、担当者はローテーブルを挟む対面に彼らも楽譜の裏の数字に顔を突き合わせ、身を乗り出す。飛行機一機を貸し切り、飛ばす事業はツアー会社だ、と担当者が情報を与えた。とはいえ、一個人が要望する日時に機体を飛ばすには、数ヶ月前から手続きや費用面の交渉が必須となる、分かりきった事態です。が、私たちの置かれた状況は通常を逸脱していましたし、手をこまねいてる暇は僅かな可能性の確認に切り替えた。ツアー会社との連絡協議はその場にいたjafの担当者に仲介を頼みます。提案を受ける側の航空会社が企画を持ち込む、とても柔軟な思想で感謝をしました、慣例に毒された人物では、その説得にまずは時間を要したでしょうから。さあ、話はここから込み入ってきます。機内演奏の選択は偶然ですが、考えなしに直感を信じたわけでもないのです。近頃円安のニュースを該当のテレビでよく耳にします、毎朝の通勤で見かける中刷り広告に、折りたたんだ小さな新聞紙面も目に入る。海外への渡航は控えめになるでしょう、もしかすると規定人数に足らずツアーの募集を取りやめる企画も中には存在するのではないのか、しかし仮にそれらが一つの機体にまとまって企画されていたとしたら、相当数の座席を私たちは確保できるのではないのか、さらには、分散を避けできる限り一機にお客を集約させたい、との航空会社側の心境。当然ですね、空席の多い飛行機を飛ばしても燃料代は嵩み、だからといって地上に待機させるにも費用がかかる。で、あるならばと重い腰も上がるだろう。旅行会社側としても、目玉になるような企画を望むでしょうし、旅を前提とした縛りに企画の幅は限られしまう、目新しさは常に目を凝らして喉から手が出るほど、欲してる。いいえ、旅行は嫌いです、興味はありません、仕事で国内を飛び回るからでもありません。スタジオの最寄り駅、駅舎内に並ぶ旅行会社のパンフレットを思い出しただけ。それほど変な行動でしょうか、覚えていますよ、すべて、取り出さないだけです」