「どういうことでしょうか」鈴木がきいた。しかし、種田が代わりに応える。
「つまり、一店では抱えきれない仕事を協会で引き受け、手が空いている個人に仕事を割り振る。イベントごとなど開催日が重なることもあります。また、大勢のお客の要望に答えるためには複数のカメラで対象者、対象物を狙わなくてはならない。そこで、横の繋がりを意識、普段は記念の写真やそれこそ個人で請け負う仕事をこなす。そして、人手が足りない場合に協力し、区域内の需要を確保する。いくら個人の端末に高性能なカメラ機能が盛り込まれていようとも、彼らがイベントの当事者となれば、必然的にそれを撮る仕事が生まれる。また、素人とは違いカメラを生業とする、瞬間を正確に捉える技術は写真を見比べれば一目瞭然でしょう」
「カメラが好きなようですね、そちらの方は」義堂は刑事二人を迎え入れてから、ようやく笑みをこぼした。
「いいえ、単純な事柄を順序立てて考えただけのこと。特別な知識を持ちえなくともこれぐらいの認識に達するでしょう」
試す、義堂は種田の言葉を受けて質問をした。「では、一般的な写真と写真家、プロの写真との違いは?」
「明暗の差。それを理解してるかどうか、ということでしょう。平面でも線描写でもない、奥行きと陰影によって捉える。豊かな色彩ばかりに気をとられていますが、白黒が写真としての価値を損なわないのは、そういった要因を含んでいるから」
「あなたはカメラを持っていますか?」
「いいえ。必要ありません。見せるため、あるいはそれを記憶として保管しておくための道具として使用する意味を見出せません。だったら、曖昧でも構わないので抽象的に求める箇所のみ鮮明に覚えておく、脳内に。カメラを取り替え、買い換えても求める写真が取れない、そういった方々を不憫に思います。カメラ技術の向上、そのための競争に巻き込まれているともいえる。ただ、判断をすればよいのです、立ち止まり、立ち返り、整理を施す。すると、現状が見えてくるはずです。カメラ業界から敵対視される思想です」
「……仕事を止めた甲斐がありました、めずらしく興味深い話を聞かせてもらった。ありがとう、仕事の疲れがふっとびましたよ、さあ、どうぞ」義堂はそういって心を開き、ソファに二人を特に種田を丁重に扱い、案内した。鈴木はすぐにでも知りたいことを聞き出したいが、ぐっと義堂の反転した気分を損なわないようそれとなく慎重に尋ねた。
二階からコーヒーが運ばれた、背の高い女性が配膳係、義堂夫人だと思われる。種田の憶測。