コンテナガレージ

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巻き寿司の日5-1

「本物ですか?」店長は向けられた銃口の先をまじまじと見つめる。小川と国見は各自、身を隠しつつ、動向、これからの展開を固まった下半身で見守った。

「試してみますか?」拳銃を持ったとたんに浮いていた田所の重心が据わった。弾丸を目標物に当てる弾道の確保は拳銃の重さが担っている、それが持ち主にも伝わっているようだ。田所は自信に満ち溢れた表情。裏を返せば、これまでは不安定だったと打ち明けているようなもの。あれほど協会の教え、入会を勧めていたのに。

「私は連絡先を知りませんが、知り合いの刑事、いいや警察の方がそろそろ店を訪れます」店長は、ホールの国見に目配せを送る。国見は目を見開き、受け止め、瞬き、最後に口をかすかに開いた。

「ハッタリはよしてもらいたい。苦し紛れの情報を口にするあなたを、見たくはない」

「時間としては最適。あちらの方は店の営業時間を把握している、記憶に長けた人だ」

「……さあ、フランス料理を店のメニューに取り入れると宣言しろ」田所は促す。「作り続けるのだ、店で。ランチメニューなんてどうでもいい、私が食べたいのはあなたが作る庶民的でありながらも最高級の価値を生み出す、料理の提出を淡々とこなすその手技が見たいのだ。さあ、早く、時間がない。手が震える。重たいんだ、わかるでしょうね、聡明なあなたならば」

「店長、逃げてください!」釜の横で小川が叫んだ。

「縛り付けると、縄を解きたくなる、それは人の本能です。飼われている犬と同様に、えさを与えるから台所に立つあなたに甘える。寄り添う。卑しい、食いしん坊、そうやって育てたのはどこの誰でしょうか。あなたをないがしろにして、あなたの気まぐれで与えたおやつは、あなたと同様にその味をうまさを再度欲しがる」

「犬の話ですか?動物は大嫌い、愛犬家に見えますか、私が?」

 店長は続ける。「私も同様にあなたに縛られるつもりはありません。正しいことであるかもしれない、あなたに従うのは。ですが、選択の頭脳は私によって獲得するべきだと考えます。飼い慣らされたら考えることを止めてしまいます。それに、ましてそこにはあなたの望む私は、おそらく存在していられないでしょう」

「私が実践しています、教えに従い、私は楽しんでいる。考えている、私によって行動を支配する。フランス料理を取り込んでいてもですよ、心配することはありません」