「アイラさん、まで、なんですかあ」山遂は嫌気が差したのか表情がゆがむ。
「時間がないのよ、事実だけを述べて」
「ですから、何度も言っているようにですよ、僕は彼女のことは顔しか知らない、話したことも相手の職業だって聞かされるまで何一つ知らない、赤の他人。なんですかこれは?もしかして僕を犯人に仕立て上げようって魂胆ですね、だったら、こちらにだって喋らないでいる権利もあるはずです」
種田は冷静に戦況を見つめ、鈴木は話の流れを読む。身の潔白を突きつけられた現実に反して主張し聴取が尋問に聞こえ始めた山遂は、肉体的な疲労に精神的な圧迫が重なって感情をむき出す。
熊田も山遂やアイラが事件に関与しているとは考えはいなかった。犯人の可能性は残しているが、動機の線から辿るとアイラの直接的な関係性は背後関係を調べていないにしても、現場に何度も足を運ぶのはアリバイ作り、つまり犯人から容疑をはずすための発見者を装ったとしても、行動が大胆すぎる。さらに言えば、彼女が焼死体を見つけるまで捜査上に名前すら上っていないのである。また、山遂も同様に、彼のガイドブックの提出がなければ、現場が開発地域内で近隣の施設に建設業者が拠点を設けているから、という理由によってしか責めたてられない。
アイラは首を振って落ち着いて話す。「私が借りた車、トランクに人が死んでいたのよ」
「……」山遂は開いた口を八分目で稼動を止めた。
「疑われているのは私。だから、正直に話してくれない」
ここでアイラの訴えに種田が応じた、焼死体と警察から盗まれた死体、さらにアイラが借りた車のトランクに納まる死体を山遂に端的に説明する。
風で窓ががたがたと音を鳴らす。
「レンタカー……」状況を飲み込んだ山遂は二度、瞬いた。「言われてみれば、そのう、公民館へは歩いてきましたと窺ってましたが、アイラさんは途中までは車で来ていたんですね」
「運転はあの子に任せて、そのまま車を返してもらうつもりだったんだけれど、ついさっき、あの場所まで誰かが運転していたようね」アイラは山遂を見つめる、真実を述べなければ首を撥ねそうな殺気。
「僕じゃありませんよ、今日は朝の会合が終わって公民館を出ていません。証明もできますよ」