コンテナガレージ

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回帰性2-4

「あなたの指示でしょうか?」

「要らない心配をかけて欲しくなかったのです。こちらの配慮ですよ」かばうようにネイビーの役員が取り繕う。見え透いた嘘。アイラは目をぐるりと回した。視界の端にいる天井がこちらを覗いている。

「女性の死体が発見されましたね、昨日。あなた方は、不吉な場所であると認識をしているでしょうか」アイラは遠くを見つめるよう対面するTAKANO建設の社員、役員の背後の壁に視線を送って尋ねた。

「まったく勘違いをされている」ネイビーの背広の男は、顔の前で手を振った。「よろしいですか、過去の例は自然災害です。川が氾濫して建物が崩壊したのを契機に、人が亡くなる場所として周囲に認知、広まるようになったに過ぎません。数十年前の例でも自殺の場所に建設予定地を選んだに過ぎない。構造物が建つたびに事故や自殺が起きるのは、前触れによるもの。広まる噂がそういった心境の人間を呼び寄せ、行動に移させた」

「安心しました。私はまた幽霊の類を信じて隠しているものとばかりと思っていました」アイラは微笑を作る。「それで、今日の会合の本来の目的はなんでしょうか、現場の視察ならば昨日済ませましたので、改めて無駄話に付き合うつもりはありませんよ」

 アイラの発言は午後までの現地視察の予定をキャンセルに導いた。

 役員、上司はアイラの言葉の数分後に早々、公民館を後にした。

 不毛な話し合いが数時間に短縮されたと喜ぶべき、アイラは寒さが足元から上がってくる通路で黒のベンチに座り、甘ったるい缶コーヒーを口に含んだ。午前の十時過ぎ、壁掛け時計の時を刻む音色が聞き取れるほどの静けさ。道路が窓枠に見えるはずだが、雪が日光をさえぎり薄暗い。自販機が低く唸った。

 秘書の女性が図書館に入っていった。アイラは図書館につながる結合部、休憩スペースを兼ねた場所に、図書館の入り口に顔を向けて座っている。

 しばらくして図書館を出た秘書がアイラの存在に気がつく。「ここにいらしたんですか」

「私を探していました?」

「はい。山遂さんが、今日の予定はすべて終えたので、建設に関することで要望があれば応じるといっています」

「あなたにお願いがあります」

「わたしに?ですか」

「ええ、また車を貸して欲しいの。ああ、ガソリンなら入れて戻すから」