「真実を話していただけないのでしたら、長居は無用。我々には時間がありません。それでは」
振り向きかけた熊田をこれまでになく必死に山遂は引き止めた。「わかりましたよ。話します」ためらいがちに山遂は語り始めた。「彼女とは前々から知り合いでした。僕が一方的に好きだったというだけのことです。開発場所の視察で、彼女はと人が死んでいた辺りの散策中に出会いました。最初は互いの仕事を隠して、たまに会うと挨拶する程度、それから昼食時にわざわざ足を運んで彼女に会えるという期待を持ったのです。互いの仕事は、彼女の荷物が振り返った拍子に僕と接触、ひっくり返ったファイルから知ることができて、僕は正直に仕事と身分を打ち明けました。コンペで彼女の会社名も記憶していましたから、これ以上の接触は関係性がなくても、疑いは生まれてしまう、だからそれ以降は彼女とは、バスでは同乗していましたけれど、一度も接触していません」
「ガイドブックを届けた際の聴取であなたが彼女を知らないと嘘をついたのは、コンペの結果に異論を唱えられたくなかったから、そう受け止められます」熊田は山遂の言葉を待った。
「……仕事は順調に進んでいます、その中で僕が足を引っ張るわけにはいかない。ここで失敗すれば会社での未来は見通せない。黙っていたことは謝ります。ですから、どうか、マスコミには事実を伝えないでください。初めて任されたプロジェクトなんです、成功させたいんです!」
「樫本白瀬に会ったときに疑いを持たなかったのでしょうか?」種田が言う。「臨港沿いの通り、海と平地と荷物を運ぶ道路です。民家もない、そのような場所で人と出会い、会話を交わす。とても日常とは思えない。作られた出来事にまで気が回らなかったのは、あなたの責任。問い詰めるつもりはありません、私は部外者です。しかし、失敗という言葉の使い方が間違っていたので指摘した。トラップに引っ掛かる前に気がつけたあなたがいたことを、あなたは忘れている」