コンテナガレージ

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静謐なダークホース 5-1

「こんにちは、はじめまして、ううっと、ああ、なんだっけ、突然の訪問をお許しください」ドアを潜った人物は見慣れない顔、短めの上着にマフラーは、かなりの軽装。誰だろうか、ぶしつけな質問をこらえて店主が訪問の理由を尋ねた。

 拮抗した空気がほどかれる。

「何か、御用でしょうか?ランチはもう終わりました。午後の営業は四時からです」

「お客として来たのではなくって、その、はい……」入ってきた女性は言いづらそうに唇をかむ。そして、ひらかれ言葉が出た。「……ランチを買うついでにお店の方にチョコを渡してもらったのは、実は私なんです」

「あなたが、そうなの?」比済ちあみは彼女の側面、全身、顔をつぶさに観察する。頭脳明晰、科学的な知識を身につけているとは思えない、そういった表情で見つめる。

 しかし、登場した彼女はカウンターの店主が視界を埋め尽くしているようだ、比済の独り言にもとれる問い掛けは無視される。

「チョコレートは、あなたが作られたのですか?」

「はい。間違いなく私です。まだ、食べられていませんよね?残りがあると伺いました」

「どうしてそれを?」

「ああ、そうだ」彼女は空気を飲む仕草で呼吸。喉と胸の中間に手をあてた。「もう一つ謝らなければいけないことがあって、あの、すいません。私、盗聴していました。でも、偶然なんです、音を拾ったのは」

「よく状況が飲み込めない。この店にあなたは盗聴器を仕掛けたとでも言うのですか?」店主は、奇をてらった彼女の告白に多少動揺する。館山と視線を交わすが、首を振って事情は把握しいてないらしい。

「信じてもらえないかもしれませんが、これから、その仕掛けるつもりでした」彼女は店内を見渡す。サングラスの二人にも申し訳なさそうに眉の八の字を見せ付ける。「だから、行動を起こす準備に、競合しない周辺の周波数を探っていたのです。店の外で。そうしたら、偶然に店内の状況を把握できるほどの感度で音が耳に届いた。恐ろしくなって、でも、しばらくきいていて、ああ、私のことを言ってる、そう思って素直に謝ろうって」ショルダーバッグを前に無線機を取り出し、店主に渡した。恐る恐る、初めて動物に接触するおびえ。彼女が所持品を渡したのは、つまり敵意がないことを示したのだ。