コンテナガレージ

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静謐なダークホース 5-4

 そういった風景に見とれて、足を進めた先に、ひびの入った壁に入り口を守る黒ずんだ幌とかすかに読めるタカオ無線の店名。記憶は二分の一を勝ち取った。店主は、躊躇うことなくドアを引き開けた。

 外観からは想像がつかないほど、店内は明るく、埃っぽさや息苦しさという印象は払拭された。ショーケースが狭い店内の、通路を作り出している。入り口から向かって左右に二つ置かれている。また、取り囲む壁に沿っては、低く宝石や時計を眺めるケースに用途不明のほぼ黒色の塊が、かなりの高額な値をつけて陳列されていた。

 入り口をまっすぐに進み、レジに座る男に店主は尋ねた。

「すいません、盗聴器を探す機械というものは、こちらにおいていますか?」

 手元の細かい作業を可能にする拡大鏡が取り付けた眼鏡を跳ねるように上に向けて、男が顔を上げた。

「盗聴器ではなくて、それを探す機械をお求めで?」

「はい」

「探せますよ、身の回りのもので」男は、かがんで姿が見えなくなる。レジの天板に、ラジオと盗聴器だろうか、基盤のような緑と小さな薬のカプセルが詰まった三センチ四方の板を並べた。その板が店主の手によって、複数のプラグがささる分配器の外枠が被せられた。テーブル脇の延長コードにプラグを差す、男は言う。「ラジオはお持ちですか、端末でも問題はない、ラジオの周波数が盗聴器に近づくと、このように聞き取れないほどの雑音が混じります。ただしこれは、調べる場所が狭い場合に限ります。お客さんは、探す場所はある程度予測を立てているものと、思いましたので、この方法が最適かと」そういうと、男は無言に笑みは一つも見せないで、何一つない天板が姿を現した。

「どうも」

 お礼の類はいらない様子だったため、店主はアーケードの屋根裏をちらりと見上げて店に戻った。

 十分ほどの時間経過である。

 男に教えてもらったように、ラジオをかざした。レジの棚に仕舞う緊急用の手動タイプのラジオを、リールを巻くように店主は掲げて、主に電飾類の近辺を入念にさらった。天井のシャンデリアは無反応、レジ周り、それから厨房のコンセントがつながる箇所はくまなく調べたが、クリアな女性の声が聞こえる。盗聴器を仕掛けた女性の告白ははたして真実だったのか、と店主は疑いをかけるが、店内の会話を彼女は知っていた。しかもつい先ほど、交わした内容を言ってのけた。店員に聞いたとは思えない。または、店員が持つ端末が通話状態であり、そこから情報を得ていたとも考えられるが、しかし、そうする意味が見出せない。