コンテナガレージ

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静謐なダークホース 4-9

「かなり独断ですね」

 比済が店内に戻る。彼女の全身が見える入り口のマットの上で止まった。表情は固い。引きつりも見られるだろうか。

「製造中止をどのタイミングで行うのでしょうか?」

「世間におけるバランス」

「圧倒的なシェアを獲得したら?」

「栄養食の部門で?」

「ええ」

「食品全体に占めるパーセンテージでは?」

「明らかにそれはデータではありませんか。あなたは数字を元に決断されるの?」

「私の独断です」

「救われる人は確実に増えます」

「でしょうね」

「貧困も撲滅でき、栄養状態の悪化による病気の予防には最適なのです」

「私も、そう思います」

「だったら、なぜ手を貸してくれない?」

「この店のお客は食事をただの栄養補給とは思っていないようです」店主は言う。「食事の獲得まで行列に並び、ランチを買えた喜びも、持ち帰り、口に運ぶことすべてが、一連の面倒で時間のかかる待機を払拭するらしい。私は正直、並んで食事を待って食べるぐらいならば、食べないことを選択する。ただ、多く人は、仕事から解放される時間と栄養の補給と好んだ味が至福なのでしょう。表情が豊かです。もし仮に、栄養のすべてがあなたが作り出す製品で補えるとしたら、人は飛びつくでしょう。だって、それで何日にも凌げてしまえるのですから。しかし、毎日味わった空腹と味覚は満たされなくなるのです」

「わかっていないのはそちらですよ、我々研究者は食事の時間も惜しいほど、研究に没頭している。無駄なのですよ、手を止める時間が。体内に取り入れる栄養素の消費を遅らせる、この商品の完成を私たちの同胞は、確実に買い求めます」比済が肩の辺りまで右手を上げた。固まる二人の男が、斜に構えた。ブラインドの重なりみたい。

「力づくで吐き出させることも可能なのですよ」

 比済と男二人が機敏にベルに反応、ドアが開いた。