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手紙とは想いを伝えるディバイスである4-3

「鋭いですね」彼女の表情はまだ固い。「会社を休んだことは、そうですね、ありません。また、二つ以上の仕事をこなす人物ということに限らず、新人のときにあてがわれる教育担当の社員のほかには社員との交流はほとんどありません」

「そうですか」

「あの、社長はどのようして、その……、殺されたのでしょうか?」

「私はあなたに殺人をにおわせる発言を控えてました、なぜ殺人と決め付けるのです?」

 彼女の表情は揺るがない。「病死ならば、すぐにでも救急車を呼びつけて、運ぶはずです。しかし、そういった兆候は見られない。救急車が社に到着すれば、漏れ聞こえてくるでしょう、ドライな関係性でも非常時の情報伝達は普段の意思疎通の有無を回避して届きます。これらの状況を総合すると、社長はなんらかの社員に知られたくはない、知られてはまずい状況で死に至った、と思われます」

「実に明快な解答です」熊田は二、三度拍手を送った。「ご覧になりますか、あなたの意見は社長に近い人物としては貴重ですから」

「ぜひ」

 二人は社長室に移動した。ドアは、開錠のロック機構が働かないよう椅子をかませて隙間を空けていた。ドアには触らないように、熊田は慎重に玉井を室内に誘導する。入り口から右手、足元の死体を彼女は見つめる、驚きと困惑の態度が微かにうかがえたが、あまりにも驚き飛び上がるといった大げさな仕草は制限をかけているのか、表には出ない。「何か気づいたことがあればおっしゃってください。私よりも社長についてはあなたのほうがよく知っている」熊田はドア正面の壁を背に、ドアの前に立つ玉井に尋ねた。

「……凶器が見当たりません」

「ええ、私が駆けつけたときにはありませんでした。犯人か通報者のどなたか、または共犯者が持ち去ったのかもしれない。殴られたのは確実でしょう。高い場所から落とされたとは考えにくい」

「あまり出血の少なさも気になる」彼女は大胆に死体を覗き込んだ。顔を、目元やこめかみに流れる血液を穴が開くように見つめてる。まるで公園の蟻の巣を炎天下の中じっと見つめるような子どもの姿だ。

「鈍器のようなもので殴られると、血液の飛散は少量、内出血が死亡の要因でしょうね。もちろん、頭蓋骨の骨折や脳への損傷も考えられます」

 彼女はしゃがんだ体勢をやめて、室内を歩いた。直接廊下に通じるドアが気になるらしい。

「そのドアは開けられていません。皆さんは、会議室に通じるドアからこの部屋に入ったようです」熊田は説明した。