コンテナガレージ

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静謐なダークホース 5-2

「どこであれをつくったの?」

「……自宅です、正確には半分母親に手伝ってもらいました」

「そう、あなたのお母さんが優秀なのね」比済の頬が上がる。「自宅まで案内して。あなたのお母さんに、ご自宅に今いらっしゃる?」比済は彼女の両肩を掴んだ。

「……ええ、はい。たぶん、今日パートは休みのはずですから」

「いきましょう。お母さん、チョコの作り方覚えているかしら?」

「古いノートを見て、作ったので……。あの、その、私まだ……」

「わかっています。お金の話ね、車の中で話します。一刻も早く、作り方を知りたいのよ」

「待って下さい。あの方に気持ちを伝えていない、私は、そのために近づいたんだから」

「盗聴している人をあなたは認めてあげられる?」

 彼女は店主を横目で盗み見た。視線がぶつかって、即座に離散。彼女の視線は床、それから天井に忙しく移動。瞳が潤って、程よい凹凸の頬を水が溢れ、流れた。しかし、目は固く決意の意志。彼女が厨房に近づいた。彼女が見上げる。

「いつも見ていました!ランチもあなたが作っているから、買いにいきました。す、すごく、あ、味が、つ、通常よりも、だ、大好物で。うん、違うッ。いえ、違いません、そうじゃなくって、ああんもう、なんだ、ああっと、私のこと変な女だなって思っていますよね?いいですそれでも、だけど、私は、そのいつも見ていることは、覚えていて欲しいです。ぶしつけで、自己中で、飽きっぽいですけど、お店に通うのだけはもう三ヶ月も続いてます。だから、その、つ、つぶれないように頑張ってください。それでは、お見苦しい所をお見せして、大変に申し訳なく思いますです」振り下げた彼女の額が調理台の角と衝突、頭を抑えて、照れ笑い。僕と目が合う。そして、顔を赤く染め、ベルに紛れるよう一目散に店を出て行った。彼女を追いかけ、比済としっかり忘れずに鞄を手に男たちが続いてドアを潜った。

 時刻は午後の三時である。

「盗聴器は誰が取り付けたのでしょうかね?」店主への明らかな好意の不発弾頭がもたらす雰囲気を払拭するかのような、わざとらしさ。館山が出窓に首を曲げて言い放った。

「去年の事件で取り残しがあったのかもしれない」

「ああ、そうか、そういえばですね」館山は店主が行動を起こさないことを不審に思ったのだろう。「店長、放っておくのですか、盗聴器」