コンテナガレージ

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独自追求2-3

 汗だくの彼女たちへの声援が鳴り止まなくて、いつの間にか明るいのにペンライトが頭上で振られていた。

 集まりすぎて会場に入れないお客が危険を予見させる数を越えたので、公演はこの一曲だけで中止と彼女たちアイドルの口から説明された。

 当然のように客からはブーイングの嵐。しかし、チケットは無料でしかも、公演は当日それも整理券配布まではライブの開催は公表されておらず、ただライブを行うとしか記載されていなかったのだ。これ以上何を求めるのだろう、際限のない要求に距離を取りたくなった。

 特定されない観客席は暴言の宝庫と化して好きであろう応援している彼女たちに向かっても卑劣で容赦の無い言葉が投げられた。アイドルは何度も頭を下げてステージ裏に消えていった。急にステージが暗くなったように思う。貴重な体験が私に刻まれたらしい。動かされた情はまだ体内ではくはくと鼓動をやめていない。

 彼女たちは技量の無さを逆手に取ったのだ。できないことをできるようにわずかに近づけたとしてもそれが簡単にできてしまう才能には決して叶わない。ならば、できないを売りにする。ドキュメンタリーではいかにその人物が技能を披露するまでに苦悩と惜しみのない努力を映し出そうとするけれど、彼女たちはおそらくは努力をしたとは思っていないだろう。苦にならなくてただ楽しいその感情が歌詞に乗り、曲に合わせて歌いこむうちに情動が刷り込まれていった。 

 観客が喚く中、そっと私は会場を後にした。カラカラとラムネのピンと内部のビー玉が歩行の振動で音階を奏でる。擦れ合う靴底と地面。もっと言えば体内の関節の各部も同様にクッションに吸収されているだけで音は鳴っている。世界は、目の前は音に満ち溢れて欲しい情報だけを取捨選択して私に許可を求めずに音が聞こえないように仕組まれている。

 空き瓶はダンボールにマジックで書いたビンの文字の簡易なゴミ箱に捨てた。人がさらにステージに足を向けて透明な私の数センチ横を不躾に過ぎて、入れ替わり。地下鉄の運行状況は改善したかもしれない。遠回りになるかもしれないが、また地下鉄に通じる階段を選択した。

 地下に通じる、ポッカリと空いた穴に何の躊躇いもなく入っていく私が発現された。