コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが5-3

「昨日ですか、飛行船は飛ばしてませんよ」取り繕う様子はない、彼女は飛田の動作、表情を逃さないように捉える体勢。

「S市上空で飛行船が目撃、写真に収められていることはご存知でしょうか」

「いいえ、まさか。うちのじゃありませんよ。飛べる状態ではなかったのですからね」

「と、いいますと?」

 飛田は機体の形をジェスジャーで形作る。「卵型が機体の特徴です。均等に圧力がかかるよう骨組みで補強した外側の膜の内部に気嚢と呼ばれる充填したガスのバルーンを膨らませて、空に浮かびます。バルーンの一つが点検に引っかかりましてね、その修理に昨日は終日追われていたんです、飛べはしませんよ」

「しかし、不測の事態に備えているはずです、予約をネット受け付けているのなら、バルーンの修理のために急遽キャンセルというのでは、事業は成り立つどころか、存続はあやうい。予備のバルーンやもう一機や二機、機体を所有しているものと予測できるのですが、その点についてはいかがでしょう?」

 種田の質問に飛田の表情が曇った、立ち上がり席に突くタイミングを逃した舞先と視線を交わす。暖かい室内に隣の鈴木はあくびをかみ殺した、これも助手席の乗車員の許容される現象である。

 彼女は距離を詰める。「隠してもいずれ発覚します」

「……」飛田は天井を見上げ、際限ない瞬き、そして深いため息のあとに低音を発した。「仕方ありません。正直に言いましょう。事故がなかったので、黙っていれば、ネットの騒ぎも収まってくれる、安易な発想でした」

「それじゃあ、やっぱり飛行船は昨日、飛んでいたんですね?」鈴木がきいた。

「ええ、おそらく私たちの機体です。写真を見る限りでは、はい」どうやらネットの情報を彼らも掴み、しかし事故や警察からの咎めがなかったので、黙ってやり過ごそう、こういった判断か、総合すると彼らは飛行の関与を否定することになる、種田は被害者に摩り替わった飛田の態度の変化をつぶさに観察する。