コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?6-3

「これは、お願いですか?」店主は澄み切った瞳で尋ねる。「それとも、要請でしょうか。私にはどちらかというと、後者それも多少圧力のかかった返答が標準的な行動規範のようにも感じられる」

「受け取り方はあなた次第。手がかりが足りないのです」種田は訴えた、小細工は通常しない、それもあの女に習った。

「お客さんの会話を、あなた方にお伝えするのは気が引ける」店主は種田の左後方、まだドア前に立つ鈴木に目線で合図を送った。この女をどうにかしてくれ、といういわば邪魔者を扱う無言の提案。いいや、警告に近いな。種田は、しかし引き下がろうとはしない。さらに、食い下がる。

「どなたが話したか、正確な情報は隠してくださって結構」種田はカウンターに詰め寄る。「噂のみを抽出してくだされば、当事者の特定には至りません。また、あなたは既にお客が語る情報を握っていると、認めた。話してください」睨みつけた、そう思われても背に腹は変えられない。正直に打ち明けたとおり、情報が少ないのだ。得られるネット上の目撃談は日を追うごと、投稿数と情報の正確性は下降の一途を辿る。次の手を打つ必然性に私たちは駆られた。鈴木は考えているようで、実行に移すとなると、慎重さが邪魔をする。時にひらめきが発現するも、それは当事者としてではなく、一歩引いた責任者という肩書きを脱ぎ捨てた自由の身に起こるきらめき。頼れるのは私だけ。彼女は唱える。あいつにだけは頼らないと決めた。あいつは部外者。この人は情報提供者、いわば関係者だ。取り繕ってるだけではないのか、いいや問題ない。事件を解き明かすのは、事態を打開するのは、犯人を捕まえるのは私しかありえない。自負。いいえ、そんな高尚な気概を持ち合わせてるはずもない。女性だから無理をしているって、低俗な考えに縛られた覚えは生きてきて一度も感じてないの。少し黙ってて。