「いいでしょう、ほら、なかなかの商品だとは思いませんか、気に入ったって顔に書いてありますもん」まるで自分が生み出したみたいに小川は言う。「改装に着手したら店の電話が使えなくなります、店長はいつも店にいてこそ、居場所と連絡が取れた。よって、今後は店長とは連絡が取れない場面が増えてしまう。バッテリー残量の乏しい端末を使われては、私たちも移転先のビル関係者も店長の所在を探す手間に追われます。ですので、これは必ず、肌身、離さず携帯してください。私たち三人からのお願いです」
「うーん、プレゼントは有難いけれど、居場所を逐一知られるのは不本意だね」左側に立つ小川に僕は不平を率直に述べた。
「ほら、だからいったんだよ」館山が言う。
「聞いてくださいよ、公証で三日の電池の持ちって言うんですから、魅力的だとは思いません?」
「まあ、それはうん。そうだけれど、でもね……」
「ははあん、そうか。店長、私たちに述べる感謝の言葉をテレいますね」安佐は口元にそろえた手を当てる。「イシシシ、いんですよう、そんな、お気遣いなく、店長がね、そうやって、くふふふ、照れてる姿が見られただけ、もう万々歳ですもんねー、先輩」
「私、振るな、馬鹿」
「二人ともね、うーん、どうしようかな。とても言い出しづらくなったな」
「なんですよう、店長?」安佐は母音を伸ばした返答、あきらかに浮かれている。
瞬きを二回。店主は腕輪取り外して手に持って持て遊びつつ、口を割った。「これって、不具合で回収されているよ」
「えっ、不具合?」
「店長、それブルー・ウィステリアの端末ですが?」館山がありえない、といった表情でこちらに近づき、尋ねた。よほど信頼された企業の商品らしい。
「二人とも、そうか昨日は終電で帰って、今日の出勤時間だ。ニュースはまったく見てないんだね、通勤も座席で眠っていたのか」