コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-7

「あっと、かかってきましたよう」手元の端末が青く、いいや紫に点滅、鳴動を繰り返す。初期設定ではこうした音声がデフォルトに設定されるのか、いいかげんに無音を通常の仕様に変更できないものだろうか、店主は色合いを濃い紫に断定した。離れれみると青く、近づけば紫。

「もしもし」重なる館山の低音が耳に届いた、狭い空間で声が反響したみたい。小川が館山と端末を挟んで耳を寄せた。

「おー、聞こえます、聞こえます。感度良好、こちら安佐です。どうも、どうぞ、どうか、どうして。本日は晴天なり。トウデイ、イズ、ア、ファイン、デイズ」

「馬鹿。運動会じゃないんだぞ、それも町内会の」館山が回線を切る。プープープー、と回線音。

「あれれ?」小川が突飛につぶやいた。店主に手元を凝視、井戸を覗き込む体勢である。

「なに?」店主がきく。

「いやあ、その、私今、ふっと思いついた推理が頭をこう、スパーんと過ぎったんですよね」

「推理って、屋上で倒れた死体のこと?」館山がきく。

「はい、それですよ。うーん、おかしいな、雲みたいに掴んだように思えたのに、くそう。融通の利かない頭だな」

 小川は事件のからくりに気がついた。情報に極端に身を浸す彼女に現れたひらめきだろう。決して刑事たちの能力が劣っているのとは、立場が異なる。彼女たち刑事は事件を解き明かす一点に意識を集約するがあまり、現状手元に所有する証言者たちのカードを見落としているだろう。盲目。盲人、そういえば、目が見えない女性と男性の会話も彼女たちは聞き取っていた、これは大変に興味深い。互いが、互いを、という構図はこの度、僕の元に舞い込んだ最上のストレンジな出来事だったであろう。これを上回る事態は工事前の一代イベントに名を連ねる。

 あくび。端末を箱に戻す、考え込む小川に見つからないようにそっとしまう。電源も落とした。振り返って、館山リルカに端末をレジの下にしまうよう、頼む。店主は肩を竦めた。