「食べることはそんなに必要かな?」
「休憩入ります」
「どうぞ」
「安佐、もう一つは?怪しい待ち人は二人だったでしょう」
「先輩が今度は開けてくださいよ、私ばっかり。見たい気持ちは同じくらいですもんね」
「見たいなんて、一言も言ってない。危険か安全かを確かめないと、仕込みに身が入らないから、言ってあげているの」小川に対した言葉遣いと声色は店主に向けられた途端に愁いを帯びる。館山が開封の許可を願う。
他の包みを無造作に手に取りつつ店主は、視線を合わせ、数秒停止、瞬き、そして首を縦に振った。
黒のリボンが十字に巻かれるつや消しのボックスが開かれた、そこには意外な提供物が納まっていた。
「これは、……おにぎり、で間違いないですね」小川が呟く。
「おにぎりに、漬け物、から揚げに玉子焼き。軽食用のお弁当じゃないのこれ」館山が言った。
店主も中をのぞく。奇をてらった手法だろうか。
「バレンタイン弁当はちょっと前に流行りましたね。ほら、甘いものが苦手だから、でも手作りのお菓子とかクッキーは、単純な工程だけど、時間が経つと結構湿気ったり、移動中に形が崩れてたりとかで、失敗の報告をよく聞きます。なるほど、目立つように作戦を立ててきたんですね、これにはメッセージカードはありますかね?」
「どうだろう」館山は蓋を持ち上げるが、見つからない。調理台と接する底も確かめる。しかし、一つ前の意味深な手紙は発見にされなかった。
「店長、これはちょっと私も怖くて食べれません」小川は聞いてもいないのに、毒味を拒否した。苦々しい表情で顔に皺がよる。
「最初から食べる気はないよ」
「捨ててしまうつもりですか?」小川がきく。
「小川さんが食べてもいいんだよ」
「私は、遠慮します」
「じゃ、僕も食べない」
「それは食べてください、せっかく店まで渡しに来たんです」
「これをもってきた人たちは、そうは思っていないよ」
「どういう意味です?」館山が顔を傾けて質問する。