コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-3

「あ、うん」

「何をもじもじっしてんですか、いつものこう、勇ましさはどこへしまったのやら」小川は呆れる。そして颯爽とコーヒー容器を片手にロッカーへ小走りに消えた。誕生日ではない、とっくに過ぎたし、彼女たち従業員には公表してもいない。記念になるような出来事がここ数日に、これからの数日に出会うのだろうか、店主は考える。

「はいっ」背後、小川が緑の箱を突きつけた。片手で持ち運べる、軽そうである。

「……意味もなく、プレゼントは受け取れないよ」

「馬鹿なことを言わないで、とにもかくにもあけてくださいよ」小川がはやし立てる、そして館山は、軽く頷く。左右を従業員に挟まれた、逃げ場はなし。日常と反転した態度に行動の彼女たち。店主は仕方なく、求めに応じた。

 白い箱だ。小川が外装を預かる。きっちり計算しつくされた密閉容器を思わせる造り、確か贈答品の箱も似通った構造だと思う。しかし、それらよりも非常に軽い。使われる紙の厚みからして違うのだろう。箱の中央に藤のマーク。

 金属の腕輪が姿をみせた。情報を経て、昨日に現物を不本意ながらも目に留めて、今日はこの通り、現物を手にすることになろうとは。積極的な衝動性に駆られずとも、こうして最新で流行の商品は手元に渡るという世界にはびこってしまう、人々の感覚が麻痺するのも頷ける。とはいえ、手に取らないわけにも、二人は目を光らせて、ごうごうと鳴き声は聞こえないにしろ、威嚇の準備はと問えているに違いないのだ。

「どうぞ」満面の笑み、受け取りの歓声を心待ちに、小川が急かした。

「僕が、填めるの、これを?」一応聞いてみた、当然だ。僕から誰かに私くれ、そう言い出しかねないから。実験台、つまり提供者が受け取る行動のシミュレーション。

「次、聞き返したら、店長でもぶったたきます」小川が眉間に皺を寄せる。

「厳しいね」僕は手に取った。銀の輪っか、薄いステンレスのような印象、傷がついたら目立ちそうだ、未来的なデザイン、フォルムはしかし時計とバングルの中間を行ったりきたり、見る角度によって姿と印象は変わっていく。ホログラム。