コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました1-3

 店の斜向かい、テイクアウトの行列に店主は並んだ。前を通りかかったときは、ちょうど店のオーナー、樽前は背を向けていたので、こちらの存在には気がついていなかった。列は十人、いいや九人が並ぶ。朝方の六時過ぎ。こんな時間から働く人はいるものだ、そういう自分も早朝労働者の一員ではあるが、今日は気楽な身分、移転先のビルの完成具合を確かめに早々と家を出た。いつもの癖で目が覚めた、これが理由だった。とにかく、することがなかったのだ。料理を思いつくにも、提供の場があって、観測と翌日の課題・展開が生まれる。空想で作っても仕方がない。だったら自宅で作れば、そういった意見には、自宅は休息の場であり、仕事は仕事場で完遂したい、というが僕の決まり、だから自宅では細々と一週間に一度、日曜の造りおきを冷凍保存した料理を日々せっせと食べ進めるぐらいで、オーブンやらダッチオーブンやら圧力鍋やら機密性の高いホーローの鍋やら外国製のナイフやら和包丁やらの使用とは縁を切る。使ってもいいが、それを使いどのような変化とどのような効能が得られるのかよりも、僕は出来上がりの品物を誰が食べるのかに焦点が当る。食べるのは僕であると、それらの器具の必要性は低下してしまう。空いたお腹を満たす、ほどほどの栄養と先週には食べなかった食材の二つの要素が満たせれば、良いのだから。

 店主の考察は時間を飛び跳ねる。順番は気がつくと次であった。

 前のお客は立ち退く、料金を支払って受け取りを待つようだ。

「コーヒーを一つ、ホットを」僕は注文を告げた。

「すぐに飲まれますか?」高温の抽出機のボタンを押す、振り向きざまに、樽前は顔を上げた。「ああ、これは、どうもおはようございます。お店、工事始まりましたね」