コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?1-10

「樽前さん」宇木林は目を光らせた。「ただものを売ることをね、私は卒業した。継続的な集客は望めるとは思います、好条件の立地がそれを後押しする。ただし、そこに居続ける存在意義を街の流れに合わせることはやめたのですよ。わかりますか?あなた方のような土地に生きる店の来客を、ビルに反映させたい。もう地方の掘り起こした価値のある産業を都市部で売り出す手法はそこをつき、均質化される。すぐに」

「時間がありませんので、話をまとめます」店主は樽前の背後の時計を首を逸らして、時間を確認する。「この店の改修は私の同意如何に関わらず、いずれ着工が法改正によって定められ、行わなくてはならない」

「はい、お伝えするのが遅れ、誠に申し訳ない次第です」

「期間はどのくらいを想定してますか?」

「二週間ほど。耐震設備を屋上に設置する機構を取り入れます、後は外壁の補修ですかね、はい」

 店主は宇木林に言う。「では、二週間の限定期間に関しての契約を、宇木林さんと結ぶ、ということですね」

「厨房内の設備は要望があれば、用意します」

「店の広さは?」

「そちらの条件次第で」

「まだ改修の途中でしょうか、新しくビルを建てるのではないのでしょう?」

「前の店舗の名残を思い出すとお客は引いてしまう。まっさらな状態、それと、ビルを通り抜ける通路に沿った店舗が望ましいですね」

「私が店を抜けたあとの店舗の使用目的は?」

「店長さんの意向しだいです。気持ちは変わりますから」含み笑い、目もとに皺が刻まれた。

「打ち合わせは申し訳ありませんが、閉店後に行う、この条件が絶対です。守られないようであるならば、店舗の移動も改修の承諾もなかったことにさせてもらいます」

 宇木林は左右に口元を引き、桂木はお地蔵様を拝むように手を合わせ、樽前は身に降りかかる予期せぬ移転の対処に目まぐるしく頭を働かせ、力の抜けきった上半身をすとんと椅子が受け止めた。