コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました1-4

「ええ、今日からです。うるさいでしょうけれど、大目に見てください」

「いいえ、僕は後からやってきた新入りですので、意見なんて言えた立場ではありませんから、はい」樽前は気後れしたようで、数秒虚空を見つめるように、僕を視線を合わせた。背後で音声が鳴る。前のお客のコーヒーが出来上がったようだ、提供に応じた彼なりの選別方法があるようだ、天板のメニュー表にコーヒーの量と飲み干す大よその時間区分で勧めるコーヒーの種類が異なるらしい、店主はふんふんと首を縦に動かす。

「うちは量によって焙煎の種類を予め選んであります」興味深げに僕の動作が見えたらしい、前のお客にカップを手渡すと、樽前は説明を始めた。「特殊な豆は可能な限り少量分を仕入れます、主にインスタント感覚で飲まれるお客向けがコンセプトですから、店長さんのように舌の肥えた人には物足りないでしょうかね」肩を揺らす、彼は笑った。卑下することではないのに。

「このMサイズを一つ、ホットでください」

「かしこまりました」

 料金を支払う、ちょうど小銭が財布から消えた、綺麗さっぱり。お金が消えたのに、気分がいいとは、矛盾した行為に思える。前の客に習い、場所を譲った、列は十人前後をキープしていた。

 スチロール材のコップを受け取り、店主は店を離れた。余計な引止めが樽前から送られなかったのはよかった、工事というワードで幾つかの視線を感じたからだ。