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手紙とは想いを伝えるディバイスである5-4

 それでも席を離れなかったのは、社長の死について考えていたからである。特別に恩義のある人物とまではいえないにしても、それなりの功績は認める。あまり人を認めないが、彼女は仕事やデザイナーの想いを汲んでくれたはずだ。だからこれほどまでに会社に人が集まったのだ。

 新しい突拍子もない仕事を持ちかけて、あの場に行かなければ、第一発見者にはならずに済んだのに、武本は後頭部に両手を組んで斜め上、無機質な代わりばえのしない灰色の天井を見やった。現場に訪れたときのあの男の名前は、安藤といったか、あいつはどうにも挙動不審だった。トイレから戻ったときに、室内をあれこれ物色していたんだから、疑いたくはなるさ。会議室中央のテーブルの下に入り込んで、何をしていたのか、本人はペンを落としたと、説明したが、スーツやジャケットを着ているのではない、黒のニットであるため、上着にペンを差し込むべき場所はそんざいしない、また書き留めるためのメモ用紙などの手帳を手に持っていなかった。……ペンはポケットに差し込んだのかもしれない。

 それから二人で会議の時間まで社長を待った。時間にして十分程度だろう。遅れて始まるとは聞いていたが、それも数分の時間差で、十分も社長が時間を無駄に把握しているとは思えなかった。私は席を立った。社長室のドア、呼びかけに応じない。そこでドアレバーに手をかけるとドアが開き、社長室の様子を、廊下からドアを開けた社とタイミングを合わせたように三人が同時に社長の死体を確認した。ただ、廊下から入った社という女には多少、いやらしさが垣間見えた。ドアを開けるタイミングを狙ったとしか思えないのだ。偶然同時にしかも通常はロックさせているドアが開くだろうか。もしも彼女が犯人なら一度、凶器を隠して戻り、そっとドアをこちらが開けるタイミングを計っていたはず。廊下はめったに人が通らない、黙って待っていても怪しまれる心配はない。同時を狙ったのだとしたら、こちらの会議の出席人数も把握していた、さらにそれによって会議に遅れてやってくる社員と廊下で出くわす危険を避けられる。いや待てよ、会議室に私と安藤が入室した場面はどうやって確認したのか、彼女とは働く階は別であった。エレベーターに乗ったという目撃を他の社員に遅らせたのかもしれないのか。可能性は尽きないということ。

 何を考えているのか、まったく、現状の優先事項を無視した自分への冒涜である。武本は席を立ち、屋外に出られないため、いつものルートを外れ、仮眠室でじっくりと休息を取った。