コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ8-7

「私にどうしろと?決めるのは樽前さんだと、私は思います」

「未熟な自分が人を雇っても許されるのかが、心配です」

「私は上の立場、とは思いません。単に、従業員、料理人としての認識が大半です」

「けれど、店の主であって、オーナーでもありますよね?」

「ええ、それがなにか?店の方針を決めるのは私です。ただ、私を崇める必要はありませんよ。それに、私はあまり料理に関しての指示は出しません」

「出さない?」語尾が上がる。樽前の顔が広がった。「だって、人によって味が変わってしまいますよね、それでは」

 店主は一拍間を置いた。差し入れのコーヒーをいただく、軽く飲む前に首を傾けた、飲みますという合図である。ありがとう感謝の意ではない。私は頼んだ覚えはないのだ、よく人は感謝の念を表せ、礼儀であると主張する。だが、本来は感謝されるために手土産は持参するものではなく、心から相手を思うがあまりにそれが物に現れる、ということだろう。蔑ろにされた感謝の念を忘れて、土産のみが手渡されるのが現在の姿だと、思う。どうでもいいことだ、そういった一場面を切り取り、人としての礼儀から人物を評価する人はそもそも僕は寄せ付けない。遠ざけて当然である。

「誰に作るのか、何を目的に掲げた料理であるか、基本的な調理はそういった料理を作る以前の在りように遡ります」店主は実直に話す。ドアベルは気にせずに続ける、逸れた樽前の視線はぱっとこちらに戻った。「人を雇う場合において、統制を私は捨てます。コントロールなど不可能だと、思っています。私ではないのですから。……理念、あなたの場合ですとコーヒーを抽出する方法や使用する豆の種類、提供、販売、接客、店内の清掃、それらの維持等、これらを満遍なくあなたの監視下にしかも短期間で学び取れるのは、経験者でも難しい。きっぱり諦めることです」

「任せるんですか?すべてを」樽前の目が飛び出す。

「あなたは誰に任されていますか?あなた自身に任されている、裏切るかもしれません、例え自分であってもこれまで諦めた、または見過ごした経験の一つがあるでしょう。他人も自らと同等に扱うべきですよ。だから、私は考えを伝えます、各自の裁量、現在の課題、成すべき、ステップアップに要する眼前の消化不良の取り巻きを各自に持たせる」

 ひと括り。三人を食材にあてがう。訪問が共通点だ。すなわち、彼らは異なる種類が盛り込んだプレートが最適な言い換え。いいぞ。椅子を引く、たっぷり時間を掛ける。ランチが現在の主役である、非難を浴びるべき対象であるのは彼ら。

 丼、プレート類は保留に。珍しさに掛ける。新鮮さを求めているようだ、秋の味覚は先週のテーマ。今週は?とっ散らかる考え。見つめられる、二人の刑事の眼力は鋭い。

 カスタマイズ、食材の分量を店内のランチでも行ってみようか。女性と男性の摂取量には顕著な開き。ドンドンと湧き上がるアイディア。とにかく、浴びるだけ浴びるか、まだ時間は残されいる。

「よろしいでしょうか?」立ったままの店主に呼びかける種田。

 店主はやっと腰を下ろした。「はい、なんなりと。私の店で不自由な私に何でも聞いてください」