コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました3-4

「発見時間のずれ、それからうーん、被害者の身元の発覚、それから、あなた方の到着と捜査の開始はおよそ、想定の範囲に収まったでしょう。店側に息のかかった人物が死体を発見、身元はいずれ発覚するように関係各所の微調整と連絡をつけた。進展状況などは小出しにする捜査資料や情報で行動をコントロールするのは容易い。仮に、お二人が予見された行動を逸脱しても、事件の核心には粉骨砕身、働いても到達は無理だった、ということがいえる」

「あなたも憶測で話すのですね」種田はいう。

「コーヒーの作り方と何が関係してるんだろう……」思い悩んでいるみたいに加熱ぶりに忙しい種田と対照的におっとりとした口調で鈴木が呟いた。

「まだ、わかりませんか?」店主はかすかに微笑を湛えてあげた。サービス。前のめりの気概を和らげる表情を作って、刑事たちの気分は中和される、というもの。「犯人はあなた方が話した物語に出てきていますよ」

 口を開きかけた種田の先を促す要求よりも、端末の鳴動が先手を掴んだ。

 出る。

「はい」

「お待たせしまた、今さっきトラックが到着しまして、いやあ、長い時間貴重な休暇をつぶして、なんとお詫びを申し上げてよいものか」

「前を置きは結構」店主は階下を覗く、話の通りメタリックな荷台が通りの景色に居座っていた。僕は立ち上がる。「今から向います」

 そのとき、背後から女性の声が室内を劈いた。クラックが走ったような響きだった。

「調べたわよぅ!何もかも。納得がいかない、ありえないって常識で考えて。何が不満って、それはあなたが一番良く理解してるだろう、おい。お前、目が見えないから、なんでもなあ、人を見下した扱いが許されるとでも?それがお前の本性さ、お前の内面だ、誰もが持ってる悪の部分じゃあないぞ、お前が隙あらば溺れる低俗な判断基準だよ。静かに?誰に意見をいってる?まかさ、私にではないだろうな、目が見えない分、音に敏感だ。おうおう、そちらの席の会話はギンギンギャンギャン、耳に届いて離れないぐらいさ。パーソナルスペース、お金で場所と飲み物を買ってんだよこっちだって、だからなぁ、迷惑を承知で私の居場所の主張は許されて、とーぜんじゃないか。よせって?恥ずかしいのはお前か、違うだろうが、包み隠さず暴言をぶちまける私ではないか。まるでピエロさ。わかっている、だからやっているんだよ。いいかお前、私を捨てるって二度と口するんじゃないよ、私はね、私はさ、私ってね、あたしはその、うまくいえないんだけれど、へへっ、あなたとこれからも関係を続けたいって、……つまりはそういうことよ」

 水を打ったような喫茶店内、中腰の店主と二人の刑事はそれぞれ固まる。背後のもう一人、大立ち回りをやってのけた相手とウエイトレスにコーヒーを作った厨房の店員も同様に動きは止まっていただろう。

 種田が袖を引っ張る。「彼女たちが情報提供者の盲目の女性とその恋人です。このまま、お願いです、動かないでください」そういうと、種田は私の腕に向かい、小声で宇木林に端的に非常事態であることを伝え、遅れの了承を取り付けた。

 事件の真相が知りたかったのではなかったのか、店主はしぶしぶ、腰を下ろした。そして仕方なく、空になりそうなカップを傾け、そっと手を挙げ、手招き、屈んだすり足でテーブルに近づくウエイトレスにコーヒーのお代わりを注文した。そうだ。僕は思い出して、屈みテーブルの上にひょっこり顔だけを見せるウエイトレスに尋ねた。

「持ち帰りは可能ですか?コーヒーをこの水筒に入れて欲しいのです」