コンテナガレージ

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ガレットの日7-2

「大丈夫ですよ、手数料の問題は。月に決まった回数、手数料が無料の引き出しまでしか使いませんからね、私は」はははっつと大げさ、中小企業の社長を思わせる快活な笑い、小川はお腹を叩いた。正確には胃がぶら下がる位置である。「そういえば、蘭さんはまだですかね、私よりも先に休憩に入ったけど、ロッカーにいませんでしたよう」

「私も見てないかも」館山リルカが亡羊と明日を憂うような店長に話しかけた。「店長、国見さんは?」館山は国見をさん付けで呼ぶ。国見の方が年下であるが、ホールの責任者と前職の経歴を踏まえた経験の長さを考慮した呼び名であると、店長は推測、直接理由は聞かない。呼び方にこだわりはないのだ、呼びたいように呼べばいい。

「買い物を頼んだ。明日のランチ用の食材が切れていてね、来月分の帳簿、バインダーに挟む用紙もちょうど切れそうだからってついでに頼んだ。サボってるわけじゃないから」

 小川が囁くが、店長にも聞こえる音量だった。「私って咎めるような言い方しましたっけ?」

「さあ、性格の悪さ表情が出たんじゃないの」

「先輩、言い過ぎって言葉知ってます?」

「知ってるから言いすぎてる」

「んっ、もう知りません」

「今度は知ってる。忙しない奴だ」

 ホール係の国見が戻る前、ディナーの時間にお客が入ってきた。

 小川は慣れたもので、案内に特化したスマイルをさらりと構築、高齢の夫婦を席に案内した。このお客は常連で、開店の当初から毎週不定期、土曜を除く平日の夕方、夕食には少し早い時間帯に店を訪れる。年齢を考えるに、日に摂取する食事量は成人よりも少量だと考えれば、正午前に一食、そして夕方の四時から六時ぐらいにもう一食食べるのがリズムなのだろう。

 お客が一組入店すると、店内は途端に店を迎え入れる合図を屋外に送っているかのように、お客の入店が絶えない。店長は小川にお客の対応を任せた。国見はまだ戻らない。料理を提供するまではホールの対応は小川で十分足りる。

 店長と館山はオーダーを裁く。寒さからピザとシチューの注文が多い。店長に時折、小川が救いの視線を送るが、応えて上げられるのは買い物に出た国見だけである。

 ピザと二番目に注文の多いハンバーグも比較的時間にゆとりを持てる料理だ。焼き目を入れる、そしてしっかり内部まで熱を通すためにオーブンに入れるので、手が空く。

 店長は店の子機で国見の端末に連絡を入れた。館山も動向が気になる様子だ、彼女はホールを手伝いたくても釜につきっきり。

 呼び出し音、コールが続く。出ない。電源は入っているが、留守番電話にも繋がらない。

 店長はテーブルから回収した皿をシンクに運ぶ小川に言った。「国見さんと連絡が取れない。いいかい、君だけでホールを回すから」