コンテナガレージ

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手紙とは想いを伝えるディバイスである6-1

 五F

 社ヤエは夫に連絡を取りたかったが、なかなかでない。通話中らしい、こんな時間に誰と話しているんだか、いけない、怒るのはよそう、決めたんだ。一呼吸置いて、落ち着いて発言に気を遣うと。子どもが生まれて仕事に復帰してからは、いつも何かにつけ、気の休まる暇がなく、慌てた状態が通常だったので、つい子どもにもそれから旦那には私が常識の範囲外を見つけるたびに怒りをぶつけていたんだ。そしてあるときに、不意に、洗濯物と格闘しながら何気なく耳を傾けた夫の話、節度をわきまえた行動を改めないのならば、これ以上一緒に暮らせない、と真剣に言い渡されて、改心したのだった。

 纏わりつく音楽。

 見えていなかったのは私のほうなのだ。子どもと家事と仕事を餌に、私はストレスの矛先を順繰り回ってそれぞれにぶつけていたのだ。旦那は無言という手法で間接的に、私が自ら感じ取り、異変、異常に気づくようにやさしさを込めて取り計らっていたのだ。

 いけない。社サヤは気を引き締める。たちどころに改善はしない、わかっているのだ。だから、こうして戻るべく、目印をつけてるの。

 張り詰めた歌声。

 旦那へメール。遅れるかもしれない、と伝える。夕方にもう一度連絡を入れることも文面に沿えた。

 社長の急死はまだ社員全体に公表は控えているのか、誰も彼もが忙しく、またはじっと耐えるようにデスクはりついて仕事に励む。誰もがいつ死ぬとも知れないのに、必死で今日を仕事をこなしてる。確実な明日など来ないのに、私への問いかけ?子どもを作ったことはもちろん、前々から憧れというか女性としての価値を出産と子育てに求めていたらしい。しかし、私は本心から子どもを願ったのではなくて、やはり生物に備わる機能、果たすべき手段として選んだと知れた。だからこそ、本能に従う頭脳を越えたいのだ。育てなくてはならない。これは産み出した、私の責任。子どもは悪くないのだ。私は変われると思ったのだ、殻を破ってくれるとさえ思い込んだ。強くなって、世界の見方が変わるとさえ思った。だけど、何一つ同じ風景や仕事が続く。こなすべき仕事が増えただけのこと。一人の時間に耐えられないから、人は家族をそして子どもを欲しがる。 

 軽やかな弦楽器のソロ。