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手紙とは想いを伝えるディバイスである7-2

 次項は、海外からの発注か、玉井は頭を抱える。すべて文面は英語であるのだ、翻訳を同僚に頼めはしない。かろうじて仕事の依頼ということまではわかるが、具体的な内容を把握するにも時間がかかりそうだ。翻訳ソフトにかけなくては概要すらつかめそうもないので、きっぱりと諦め、後回し。次の案件は、融資の申し出。融資。つまり、こちらに資金を借りさせてなしかしらの事業を行いませんか、ということだろう。資金の回転をお金を貸すことで促し、そこで生じた利益から銀行側の取り分を頂く算段。これは次の、事業拡張に関係しているか。社外からの提案である非関連の新規事業に、興味はない。異業種に取り組んでいるのはそこに活路を見出さなくては、企業として生きていけなかったため。この会社は十二分に、デザイン部門で採算が取れている。個人的な収益にも僅かなパーセントながらも料金は徴収しており、二つの案件を抱えるデザイナーの一定数の確保に貢献している。もっともな話、案件すらも本来ならば毎日舞い込んでくることは個人の仕事では決してありえないのだから、独立と社員の天秤は常にほぼ平行なラインを保つ。

 融資と事業拡張の話は即刻、決断を下した。かなりの断定を込めて言える。 

 社長はいつものこれほどの決断をこなしてるんだ、玉井タマリは我にかえって、現実を見つめる。おそらくは大勢の従業員を抱える、またはその家族を抱えているなどとは思ってもいないんだろう。常に視線の先は、安定と正反対に向いているみたいに望遠鏡で遠くを覗く眼差し。楽しいだろうな、いつまでも夢の中に、すぐに現実にその夢をつかめるのは。私にだってそれぐらいは……。しかし、何故私が選ばれたんだろうか、理由は不明確、極まりない。疑問は膨らむばかり。無意味な想像を断ち切ってしまえる、社長なのだ私は。気を取り直す。

 ここでようやく、私は最後に残しておいてた英文の訳に取り掛かった。まるで、学生時代に戻った気分で仕事を進める、いつも私は不得意な科目を最後の最後の緩んだ意志を奮い立たせるため、あえて最後に難関を持ってくるのだった。翻訳ソフトにかける。それでも思ったとおりに文面はつぎはぎだらけの曖昧さ。英文を日本語に訳す作業は割合簡単に思える、その反対の難しさに比べれば。玉井タマリは大雑把に翻訳された文書を目で追う。前のめりの姿勢だったと思う。構うものか。息を吸い込み、呼吸だけは確保する取り決めは私の安定的なパフォーマンスを打ち出すためには最重要の、欠かせない要素の一つだ。たちどころに呼吸が乱れると作業効率が落ちる。脳に供給される酸素量の低下が引き起こす事態は前もって避けておきたい。