コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

私は猫に石を投げるでしょう4-3

 メールの件名を私は重視する。ここでわからないような内容は後にまわすと決めていた。短い文面であらかじめ情報を取り入れて、それから吸収する。大まかな枠組みを作り、肉付けが本文だ、という考え。

 特殊な依頼への対応策に、海外からの発注に対する見直し、施設管理のメンテナンスのスケジューリングの打ち合わせと、融資の申し出、事業拡張の話などなどにまぎれて、私はある一行に視線のスクロールを止めた。

 手紙という単語の見出し。

 あるところに社長がいました。社長はいつものように会社に出勤、ペットボトルの水をエレベーターを降りた廊下で鞄から取り出して、自室に入りました。席に着くなり、水を二口飲みます。とてもおいしそうに。それが彼女の本日初めての水分補給だったからです。それから彼女はPCを開きました。とてもとてもよくできた人、可能な限り仕事に専念する彼女です。一人身です。子どももいません。両親は他界。一人暮らし。かわいそうに、そう思ったある人が、彼女を訪れます。その人は彼女の身近にいるひとで、けれど彼女と暮らしたいとは言い出せませんでした。しかし、それでも心に決めて、その人は想いを伝えに彼女の部屋にやってきます。どんどん。扉がノック。彼女は返答、ドアが開いて、その人が姿を見せました。その人は、彼女を前に、緊張しています。とてもとてもです。わかっていると思いますけれど、たわいもない天気の話に始まる、本筋とは無関係の世間話でした。ところが本心を押し隠した不本意な行動とは受けれない彼女は言葉を遮り、せっかく振り絞ったその人の言葉を切り捨てて、用件を求めました。その人は、言葉に詰まって、うまく言い出せません。すると彼女は、手を振り、部屋から出るようにいいます。ただ、その人は、それでも帰ろうとしません、想いを伝えていないからです。ここで帰れば、二度と伝えられない私が生まれてしまう……、その人は必死に言葉を選んで、言い出しました。そして、はっきりと伝えたのです。愛の告白でした。だけど、彼女はきっぱりとその人が言い終わった直後に、まるで答えを決めていたように拒否の返答を言い渡したのでした。その人は、悲しみました。途方にくれました。地獄に落ちたほどに、落ち込みました。ものの数秒の出来事です。その人は帰るかに見せかけて、彼女が視線を外した隙に、飛び掛りました。椅子ごと彼女は床に押し倒されます。彼女の意識は途絶え、その人は瞬間の怒りに取り付かれ、あろうことか彼女に手をかけてしまった。慌てました、驚きました、そしてその人は考えました。どうすればいいのかを。咄嗟にPCの画面が目に入りました、その人は開いていたメールを削除。シャットダウンさせて、その場を退散。フロアには誰もいません。誰にも見つからないよう、何食わぬ顔で仕事に戻りました。彼女は体温を奪う床に倒れて、いつしか床と同じぐらいに冷えてしまいました。