コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて3-4

「あああー、また二人で怪しい、蜜月をかわしてる」

「めずらしく、早いじゃない」館山が小川に応えた。

「だって今日は忙しくなりそうだから、早めに店を開ける場合も考えて、私だってちょっとは店のためを思っているんです」

「朝からよくしゃべる」

「リルカさんだって、店長としゃべっていたじゃないですか。ずるいですよ、私も料理の一つや二つ習いたいんです」

「いいから、早く着替えてきなって」

「なんです、その言い草。ナンです……、その、はい、すいません」

「どこからあの元気が湧いてくるのやら」

 二人の不毛なやり取りに目もくれず、店長は強く火を入れた鶏の鍋を味見。鶏の脂身がカレーに溶け出す、スパイスの単調な味にコクが生まれた、悪くはない。もう一つ、焼き鶏、ゆっくり火を入れたバージョンを試食。香ばしさは落ちるが、含んだ瞬間の引き立つ香りは最後まで食べきれてしまえるし、もたれない。

「これにする」

「えっ?」

「疑問がある?」

「……私はこちらの二番目に店長が食べたカレーがおいしいと感じました」

「どうして?」

「それは、その、直感です。具体的な味の違いは上手くいえません。ですが、こちらの方がおいしいとはいえます」

「間違いを指摘したりはしない、それは館山さんにとっては有意義な回答だ。僕は僕の意見の正しさを正当化するつもりはない。食べるのはお客さん、という着地にどう行き着くか。このラインだけを見極める。最初のはあとの二つに比べるとおいしさに欠けた、ここまでは共通しているね?」

「はい、そうです」

 店長はあえて鶏の調理過程を隠す。「二番目に食べた鶏は三番目と比べて際立った箇所は?」

「二番目は、そのう、香ばしさです」

「調理行程から味を思い出して話すべきではないと僕は思う」

「何のお話ですか?オリンピックがもうすぐはじまりますね」着替えを済ませた陽気な小川は颯爽と厨房に登場する。

「お言葉を返すようですが」館山は語気を強めた、僕の意見を体現している。面白い、店長は館山を眺める。「お客さんと年齢の近い女性客には私の感覚が通用します」