コンテナガレージ

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手紙とは事実を伝えるデバイスである2-3

 フロアの偵察を一通り、目に焼き付け、熊田は次の九階に降りようとしたが、エレベーターのドアが開かない。開閉ボタンにドアが応じないのだ。許可されていない、エレベーターの回数表示に乗降無許可の文字が示されていた。社長代理である玉井が制限を解除したのではなかったのか、熊田は玉井に連絡を取ったが、彼女は出ない。仕方なく熊田は次の行き先を考えて、三階から情報収集を試みた。

 三階。

 せわしなく人が動く社内をイメージしていたが、三階は動かないほうが正常らしい。人の頭が左右前後との仕切りの間から抜き出ている。立ち上がり、熊田の脇を颯爽と鞄をかけて時計と端末を見て、明らかに退社の雰囲気で人が、一人、二人と仕事場を抜ける。実に自由な場所である。警察も見習ってほしいものだ、臨機応変に退社時間を決められれば、明日以降の仕事の高い能率を叶えるというもの。熊田は息を殺して、じっと目的の人物を探した。本当にここにいるのだろうか、それほど不安にさせる人の数である。コールセンターに似ている。熊田はよぎった感触にあてまる過去の記憶を寄り合わせた。

 せわしなく働く手の動き、画面に見入る眼差し、プリントアウトされた紙に時々視線が送られて、カップを飲みものを合間に喉に流す。安藤アルキは、熊田の気配にまったく気がつかない。デスクの横に立っていて、二分ほどの時間経過でやっと彼は顔を上げた。体を仰け反らせたので、それほど仕事に集中していたのだと、熊田は観測した。

「びっくりしったあ。脅かさないでください、心臓に悪い」

「声をかけたんですけど、イヤフォンをされていたので、突然体に触れてデザインの線が乱れると困るだろうと思って、黙って待ってました」彼が取り付けたイヤフォンからは音が漏れていなかった、音漏れを防ぐ機能付きだろうか。しかし、プレイヤーに直接プラグを挿し、ケーブルの中間にボリュームなどの調節機能は見当たらない、半透明の上蓋に収まるディスクは止まっている用に見えた。音を聞いていなかったとしたら、高度な技術で私に応対したことになる。つまり、私の存在に気がついていたのだ。

「今、忙しいので、少し待ってもらえませんか」安藤は勇ましく意見を述べた。

「どうしてもですか?」画面に向き直った安藤に熊田はいう。

「はあ、どうしてって、緊急事態なら応じますけど、流れを切ったら次に取り掛かるまでの助走の時間がもったいない。もっと効率的仕事をこなさないと、今日中に仕上がらない。わかってください、そちらの事情もわかりますけど」訴えるような眼差し、安藤は悲痛な叫びと苦悩が垣間を見みせた。