コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

手紙とは真意を伝えるデバイスである1-2

 熊田はこの時、手前の会議室にもし仮に社長がそこを仕事場として活用し、殺されたのならば、会議室内に入れる権利だけで彼女を殺害できる、と考えたのだ。

 推理から方向性を見出すのは限界があるか。熊田は、手袋をはめて、若干広がった血痕を避け、デスクにかかる鞄を手に取った。デスクにおいて中を調べる。

 端末と文庫本に地図、眼鏡ケースにノートPC、車のキー。鞄のブランド名は刻印されていても熊田にはわからない。有名なブランドを社長の真島マリが好んで使っていたとは思えない。彼女の性質をトレース、可能性としてはブランドであっても、その耐久性をかった、評価したのだと理解する。もちろん、鞄はこの一つしか持っていないのだろう。

 熊田は文庫本を調べた。表紙のカバーがない、取り外して持ち歩いているようだ、黄土色の表紙。印刷はされているし、欠けているページもないようだ。以前の事件との関連性を自然に意味もなく調べた。次に地図を取る。こちらは、Z町周辺の地図である。地図にはとりわけ、以前の不可解な事件との関連を見出そうとする自分がいる、熊田は広げて調べた。しかし、特に変わったところは見当たらず、普通の地図である。もちろん、現存する建物が書かれている。架空のガイドブックに掲載された地図を見つけたことが頭をよぎったのであるが、思い違い。何でも結びつける癖は正常とはいえない。端末を操作。指先をとめて、画面から目を離す。次に移る。眼鏡ケース。彼女の持ち物だろうか。コンタクトをつけていたのか、これは鑑識に訊くか。そしてノートPCだ。電源を入れて立ち上げる。素早く起動した。

 データを調べる。しかし、熊田は専門家ではない、デスクのPCもついでに調べるか。ドアがノックされた。

「取り込み中なら、出直します」玉井タマキがコーヒーを持って、戸口に立っていた。彼女は一つを私に手渡す。熊田はありがたく受け取った。現場での飲食は禁じられているが、鑑識の捜査も済んでいる。問題はない。

「PCには詳しいですか?」光を放つ画面に視線を送って、熊田は立ち上げたノートPCの操作を玉井に頼んだ。

「データを消去するかもしれませんよ?」ストレスから介抱された表情で玉井は笑顔を作った。

「いつ消去したかもわかるんですよ、それぐらいは知ってます」

「椅子に座っても?中腰だとやりづらくって」

「ああ、構いませんよ。あっと触る前に、手袋を」熊田は予備の手袋を手渡した。コーヒーの交換、お礼に手渡したみたいだ。

 彼女は血痕を飛びのけて、窓際に、そしてデスクに座った。デスクには血痕は飛び散っていない。熊田は彼女と位置を入れ替える。

「PCは、デスクのPCとデータは同期してます。バックアップのためのという位置づけでしょうか。ほとんどノートには触れてもいませんね。定期的なデータの更新が繰り返されています」