コンテナガレージ

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手紙とは真意を伝えるデバイスである1-3

「データの種類は、具体的には?」熊田は紙コップのプラスチックの蓋を取り外して、口に到達する瞬間を見極めて、まだ熱さの残るコーヒーを含んだ。

「スケジュールです。画像などのデータ類もありませんね」

「社長室から上の階についての情報はあるでしょうか?」

「上階ですか、待ってください」彼女は小気味良くタッチ。「ビルの全体図があります」

 ひそめた眉で玉井は画面をこちらに見えるように向けた、フロアごとの名称がかれているものの、六階以降の上階についての説明はなかった。空白。各階が線で区切られてもない、ビルの最上部まで天井床の仕切りが取っ払われた内部配置である。しかし、七階と八階にはフロアが存在し、エレベーターも十三階の表示を確かにこの目で確かめた。

「七階へ入ったことがありますか?」熊田は自然に口をついた、思いついた質問を投げかける。

「いいえ、降りられない場所に誰が足を運びますか」

「気になりませんか」

「さあ、そんなことに感けている暇があるのは、仕事を投げ出している人ぐらいでしょう」

「なるほど」熊田は死の直前の社長の動きを調べてもらう。玉井はデスクのPCに両手を置き換え、キーを叩く。

「メールと業務報告を午前九時過ぎに終えて、その後は電源を入れたままで、操作はしていないようです」

「うーん、となると、出勤した九時前後は社長は生きていた。死亡推定時刻は十一時から十二時ですから、符合します。……社長はPCを使わないで、どのような業務を行っていたのか、玉井さん、見当がつきますか?」熊田は熱くなったカップを持ち替えて、彼女に言った。彼女は斜め上をわざとらしく見つめてから、答える。

「確証はありませんけど、会議の議題について思案をめぐらせていたのでは?」

「わかりかねますか?」

「はい、彼女はもう死んでます」

 重役の二人がセットで再登場。社員が出払うようにとの指示に歯向かったらしい。なにやら、玉井を呼び寄せて、熊田を何度か盗み見る。会議室に通じるドアの前である。状況から考えるに、今度の出方、社長の死の発表とそのタイミング。何かしらの契約や期日が本日や明日になのだろう。