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手紙とは事実を伝えるデバイスである8-6

「言いがかりですね。もし仮に、社長と密接な関係性を築いていたとして、妥当性の証明を、納得するような説明を一般的な理解にまで落とし込んで話さなくては。……あなたの感覚、刑事の感や直感が威嚇鋭く、単なる予感でないデータの観測も含めた予知であっても私を拘束する理由にはなりません」

「返す言葉もありません。いやあ、参りましたね」熊田は頭を掻いた。後頭部は掻いてみると意外に痒みが出てきた。

 玉井はじっくり熊田の態度と発言を観察。しかし、切り離して息を大げさに吐いた。「何が聞きたいのか、さっぱりわかりません。理解に苦しみます」

「犯人は本当に社長室から逃げ出したんでしょうか?」

「はい?いまさら何を」玉井は鼻で笑う。

「私は実にまじめに話しているつもりです」

「ああ、ごめんなさい。別に馬鹿にしたのではない。意外だったの」

「犯人は逃走したと、そうおっしゃるのですかね?」

「社長は殴られて、凶器はない。犯人が持ち去る以外に器の在り処をあなたは提示できていない」

「犯人が持ち去っただけではありませんよ」熊田は言葉を切った。「あなた方、現場に足を踏み入れることができた四人ならば、私が駆けつける前に共同であるいは単独で凶器を持ち去る事も可能だった。室内に防犯カメラがなかったことも幸いした、いいえ、それも計算の内だった。そう考えると、話は繋がりますし、凶器もそれほどかさばらない形状や折りたたんで小さくまとまる、服に隠す事ができるのかもしれない」

「私を呼び出したのは、展開する推理の整合性を見極めるためではないのでしょう、刑事さん」彼女は首を傾げて見せた。

「物分りが早くて大変ありがたいです。ではですね、あなたと三人の目撃者を残して社員には早急に帰るように通達してください」

「業務がまだ残っています」

「ええ、もちろん、ですが明日までの猶予があるのですよね?」

「何を考えているのか、はっきりと言ってください」

「少しだけ試したいことがあるのです。それは、他の社員に聞かれては少々やりにくい」

「私にも言えないことでしょうか」

「できれば、私だけの中で収めておきたい」

 テーブルに玉井は焦点を合わせる。「……無駄に話してばかりでは、埒が明かない。一発にかけるということも、時にはデザインには必要です」

「無謀な賭けと思ってますか?」

「賭けが無謀かどうかは、終わってみないと開いてみないと判別はできない」

「ええ、よくわかっていらっしゃる」

「その言葉遣いは私の前ではやめていただける?」

「そちらもかしこまってますよ」

「私のは必然です」

「私のは必死です」