コンテナガレージ

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手紙とは真意を伝えるデバイスである1-4

「もうよろしいですか?」玉井がきいた。半分体は隣の会議室に出掛かっている。

「また、お呼びします。その時には応じてください」

「次は、帰宅の許可であると信じてます」

「約束はできかねますよ」

 熊田の声は虚しく、言い終わらぬうちに彼女は姿を消してしまっPCは点灯したまま、そういえば、ノートPCにパスワードの設定は施されていなかった、デスクのPCはつきっぱなしであったので、内容は見られたのか。うん?熊田は記憶に引っ掛かりを覚えた。発見のとき、デスクのPCは電源が入っていただろうか、画面は暗かったように思う。死体に見とれて、画面の記憶が曖昧だ。一定時間の経過でシャットダウンする設定だったのか、しかし、彼女はPCを楽々スムーズに立ち上げていた。すると、PCはパスワード入力を求めない設定か?画面が見えない体面に立っていたのだ、後ろ側に回ればよかったか。思い出せない。熊田はカフェインで脳の回転を促す。それでも、うまく回路が繋がらない。どうしたものか、やっぱり年齢のせいだろう。記憶力は昔に比べ格段に落ちている。

 種田の存在はかなり大きなウエイトを占めていたようだ、彼女は熊田が劣る記憶力の面で大いに活躍を見せてくれる。抜群の記憶力でメモを取らずに、人が口々に言うエコという言葉がここで当てはまるのだ。

 熊田は感慨に耽りそうな自分を戒める。隠居にはまだ早い。日井田美弥都の思考回路傾向を真似ていたために、脳が疲労を感じたのだ。甘んじで受け入れようではないか、これが誰にでも訪れる機能低下。だって、このまま若者のようなバイタリティ溢れる精神だったらば、肉体の衰えへの悲惨な対比による発狂は目に見えて映像が浮かぶ。会議室の席に座って熊田は、三十分ほど仮眠を取った。眠る前に、安藤と武本の二人を三十分後、会議室への訪問を連絡した。

 座って数秒で瞼が閉じられる。眠い、精神の疲労は体よりも厄介だ。

 ひとりぼっちの夢を見た。置いかれる夢だ。

 月だけがぽっかりと闇夜に浮かんでいる。そこにいつもいてくれてる、私は知っているのだと、問いかける。

 しかし、月はにこりとも、返事もしないで黙って丸い形を見せつける。

 知っている。言っても答えはないのに、返事を求めている。

 かつて取り込まれたテーマ。

 そういった態度の女性が身近にいたというだけのことだ。結局は分かり合えなかった。

 私は月なんだ、彼女はいつも太陽でいてほしかったらしい。照らして、でも夜には休んでいいから明日になったら、また照らしてほしいって。

 私は月でいかった。だって眩しすぎるではないか。あんなに光って。ひっそりと夜にだけ、私は夜行性なのだ。