コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

手紙とは事実を伝えるデバイスである1-3

「エレベーターのデザインってあまり変わりませんよね。ああ、私、デザインが仕事なものですから、ははは。ついその皆さんの仕事振りを拝見して、エレベーター内の仕組みに興味を持ちましてね」熊田は思う限りの紳士な態度を表現した。正解だったろうか、相手がひるむくらいがちょうどいい加減だ。演じているとも思わせない演技力のなさには、振り切った変人を装うのが最適である。

「おーい」作業員がエレベーター内に声をかけると、もう一人の作業員が顔に黒い汚れをつけて腰に取り付けた金具をかちゃがちゃと取りはずす、作業を遮蔽する衝立は人の出入りのために開口していた。内部は相当暑いようで、顔全体に首周りまで汗をびっしりかいていた。

 ロープがぶら下がるエレベーター内を、作業員が興味あるんだったら、落ちないように中を見るがいい。だけど、すぐにまた自分が登るから用意が済むまでの間だけれど、そう言って快く内部の詳細に熊田はありつけた。

 金属、あまりお目にかからない太いワイヤー、電気信号と数色の小さなランプ、人間の内臓を見ているようで、外側の平面に比べて、凹凸や溝、色合いもまた統一感に欠ける内装。数階上からロープが垂れている、よく見ると地下にまで垂れていた。作業員の手が見えた。

「そろそろ、時間切れだ。見学会は終了」白い歯を見せる作業員が下がるように、そして前に出て、腰元にロープを装着する。

「どうも、大変興味深い体験でした」

「あんたもうちで働けばいい、まあその年齢だと雇ってはくれそうもないかもな」はっはっはと高らかに笑うと彼は、内部に合図を送って、スタントマンのごとく華麗に上部に運ばれていった。

 その場を離れかけて、熊田は戻ってエレベーターに背を向ける作業員を呼び止めて、思いつくままの質問をぶつけた。