コンテナガレージ

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手紙とは真意を伝えるデバイスである1-1

 六F 四月二日

 午後八時。夕方から夜にかけての狭間。O署の鈴木は応援がさらに遅れる状況を端末で伝えた。降り出した雨によって、作業が難航している模様で、今日中の日付までは到着が間に合わない可能性を訴えた。車は動いてはいるようであるが、まだ本調子とはいかないらしい。渋滞回避の高速道路もまた渋滞に陥り、身動きが取れない状況だった。熊田にとって、外部の情報がもたらされない状況というのはむしろ好都合に働いたのかもしれない。

 社長室で熊田はPCの情報を調べるために、玉井に同行を願い出た。彼女はやるべき仕事が増える可能性があるとして、熊田が一人だけで上階へ、必ず追いかけることを条件に玉井は三階で降車した。

 六階のフロア。静かだ、張り詰めた空気は捉える側の問題、はらんだ緊張を読み取れてしまう人間特有の、動物にも備わっている危機回避の能力。角を曲がり、廊下を歩く。視界の先に社長室のドアと左手の壁の会議室に通じるドア。社ヤエの行動を取るようには思えない、熊田は彼女の手技を考察する。不意に始まった試作である。初めての場所で、それも会議室という場所。ノックはしたのだろうか。鑑識にドアに付着した皮脂の有無をきいてみるか、いいや、手の甲でそれも瞬間的な接触である。あまり期待を込めるのは止めておこう。

 熊田は正面のドアに足を進めて、廊下を振り返った。視線を走らせる。

 社長室のフロアであるならば、エレベーターに近いほうに社長室を設けるのではないのだろうか、熊田は思った。なぜ出入りに時間を掛ける必要があるのか。それにだ、会議室とドアを隔てて繋げ、時間的なロスを避けるためにすぐにでも集まった社員や仕事相手と会議に望む。すると、会議室が社長、真島マリの仕事部屋でもなんら矛盾は感じない。よりにもよって、会議室に通じる一つ目の廊下に面したドア、手前の部屋が彼女の仕事部屋だったりして。そうすると、彼女は会議室の隣の部屋で亡くなっていた状況に捉えられる。それは一体どういうことだろうか。熊田は鑑識がドアにかました十センチ木の棒を外し、彼女が倒れた社長室に入った。

 デスク、PC、書棚、コートハンガー、デスクにかかるバッグ、それと椅子。殺風景な室内。ここは普段から使われている場所であったのか。しかし、容疑者たちの中では、会議室で待っていた経験を話していた。手前の小さな部屋が社長の仕事部屋であるなら、そこを通らないと会議室には辿りつけない。

 この部屋は指紋登録された人物しか入れないのだ。やはり、ここが社長の部屋なのだろうか……。