コンテナガレージ

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手紙とは事実を伝えるデバイスである6-1

 五F

 社ヤエに連絡を取りつけ滞在フロアの階数を聞く。当然、電話口で用件を伝えられないのか、と彼女に言われたが、直接話すべき内容である旨を伝えて、約束を取り付けた。種田の状況説明から数時間経っているにも関わらず、エレベーター内の社員たちの会話を耳を傾けるに、復旧の見通しが立つにはまだまだ時間を要するだろう。戦時中、物資を運ぶために作られた道路、国道のわき道があったように思う。そちらに順次車を誘導するわけだが、信号と一斜線の道路で渋滞は長い列作っているはずに違いない。

 五階。社は目に付く場所に立っていた、ちょうど飲み物の補給に立ったようだ、こちらの視線を受け取り、彼女は一階に降りるか、フロアのラウンジに移るかの選択を熊田に委ねた。真剣みをかもし出さないように、あえて人の多い場所を彼女は選択の二つの候補を私に選ばせたのだ、熊田は納得の表情を表では作り上げて、内心は思案に引き攣る。

 結局、下まで降りる効率の悪さをきらい、熊田はラウンジを選択した。各階の主要な配置はほぼ同じのようだ。明るいオレンジのソファへ、横に並んで座る。コーヒーを促されたが、もう十分すぎるほど飲んだ。丁重に断る。

「電話で話せない内容ってなんですか?」彼女は時計を気にしている。仕事に追われているのだ。熊田は彼女の能率については言及せずに、時間に追われる状態だけを把握した。

「何か、まだ私に言っていない重要な事があるとは思いませんか?」

「私が?」彼女は胸の辺りを人差し指で指す。「まさか。警察の人、あっと、熊田さんでしたっけ、隠しごとをして何の徳があるんですか?」

「あなたが犯人の場合には私に知られてはなりません」

「冗談でしょう?どうして私が社長を殺すことができたんですか」彼女は口元に手を添えていった。

「会議の時間以前にあなただけがフロアに下りる許可を得ていた」

「私はここで仕事をしてました」

「それを証明するのは困難ですよ」

「わかってます。仕事をしていたのは、けれど事実です。膨大な案件を処理するのに午前中の時間を棒に振って、それでも私はここであなたと一緒に話していられるのは、おかしい。いつも仕事はぎりぎりですから」

「あくまでも正直に話すのですか、すばらしい心構えです」熊田は軽く拍手。

「おちょくってますか?」

「いいえ、まったく。私も本心です」

「いずれにしたって、私はこのフロアでデスクに座り、仕事を片付けていた。そして約束の十分前に席を立ち、エレベーターに乗ってドアを開けた」

「社長室のドアの内側にあなたの指紋は検出されませんでした」

「それが何か。だって、内側から廊下には出ていませんよ、わたし」

「会議室に通じるドアですよ」