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手紙とは事実を伝えるデバイスである5

 四F

 社長との関係性がばれてしまう。武本タケルは仕事をこなす作業の手を止めた。仕事はとっくに終わり、やり取りの後半はただ闇雲に刑事が発した言葉をタイプしていた。大げさな兆候があったわけではないが、探りを入れる話し方は刑事特有の行動様式とでも言おうか。

 安藤が私の噂を漏らしたとは、思いもよらなかった。だが、どうして私が話していた通話相手の事は黙っていたのだろうか。あいつなりに気を使ったのか、それともこれから事件が落ち着いた時期に私をゆすりに来るのかも。いいや、私は社長と話していただけだ。端末の履歴に残っているし、いずれそれは知れ渡る事実。だけど、まだあの刑事は聞いてこない。どうしてだろうかと、想像するが、社長の端末が紛失したまま見つからないのが唯一、考え付く妥当な筋道だった。現場から持ち去られた?誰だろうか。私ではない。断じてそれはない、記憶は確かだ。血だって飛び散ってない、服はほらこの通り綺麗だ、クリーニング下ろしたての服を選んで着用した今日だ。もし万が一殺そうとするなら、それ相応の服を着ていくだろう。犯人でもないのに殺人の予行練習か、まったく、無意味な時間だ。

 婉曲はごめんだ、事実は真実であってほしい。社長が亡くなった。生前を語れるのは私しかいない。それは真実だろうか、嘘といわれても反論はできないか。二人だけの中で交わされた会話も、想像が作り出した思い出となんら変わりはないのだろうな。まったく。履歴の話は端末が調べられた時のための、クッション。追求の前にあの刑事は私の告白を思い出す。そして、二つの事実について再び私に問いかける。ただそれも、安藤の裏づけ、証言が条件である。

 武本は不安に刈られ、記憶違いを確かめる。

 大丈夫だ、私はあの会議室いたのだ、安藤が入ってくるまで社長と連絡を取っていた、生きているとさえ思っていた、ドアを開けるまでは。

 私ではない、

 私は無実だ、

 何もしていない、

 触れてもいない、

 違う、絶対に、

 間違ってなんかない、

 私じゃない、

 私ではない、

 私であるものか、

 私だって?

 私とは言い切れない、

 いいや、私だと思い込むな。