コンテナガレージ

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手紙とは事実を伝えるデバイスである6-2

「ドアは開いていました!」歯切れ良く社が答える。

「そうでしょうか。驚いて室内に入って、死体を皆さんで確かめますよね、その時にドアを開けたまま、ロックを気にしてドアが閉まらないように配慮したのでしょうか。いいえ、それはありえない。だって、内側からドアは開くのですからね、自由に」エレベーターに乗る前にS市の鑑識から一方が入り、早急に調べを頼んだ指紋検出結果を熊田は受け取っていたのである。

「二人が会議室を出る時にドアが開いていたからですよ、ドアレバーに触れていないのは」

「それだけではありません。ドアからもあなたの指紋は見つからなかった。通常ドアを閉める際に、気圧差を懸念して、あるいは礼儀としてドアを閉める前には大きな音が立たないよう気をつけるのでは、しかもそこは社長室、死んでいるとはいえ、まだ生きているかもしれない。気が動転していたという考えもあります。ですが、それならばなおのこと、取り乱してあちこち触っていると思われます。これらについてはどうお考えでしょうか?」

「何があったか、思い出せますか?人が死んでいたところで、ドアに手をかけたとか、ドアレバーに触ったとか、いちいち覚えているほうがおかしい」彼女は小声でまくし立てる。しかし、音声は抑えているので、喉を痛めた人物が必至で訴えてるように聞こえた。パントマイムとはおそらくはこの原理を応用したのだ、聞こえるはずの声も忠実に掠め取る。

「もう一つ興味深い話を聞きました」彼女の顔がさっと曇る。「あなたは社長さんと親しい間柄だった、そういった情報が寄せられました。信頼のおける情報源からです」

「……誰からですか、それを話したのはどこの誰ですか、信じれない。私は一切答えません」急速に高まった感情に通りがかった社員がちらりとこちらの様子を気にかけたが、立ち止まることなく通過した。

「心あたりがあるようですね」熊田は問い詰めた。

「誰ですか?」

「言わなくてはなりませんか」

「はい、絶対です」