コンテナガレージ

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手紙とは事実を伝えるデバイスである8-1

 三F

 三階に下りる。エレベーターは次の一基に取り掛かる。左側の一基はまだ点検の段階。使えるようになるのは翌日、連絡の張り紙を各階のエレベーター前に見つけた。熊田は美弥都の思考を加速させる。

 玉井タマリと社ヤエ姉妹の事実、さらに二人は社長の真島マリとも戸籍上の姉妹関係を結ぶ。事実は奥深くに眠っているものである。まして、数珠繋ぎに明らかになる真実は、いかにして人が隠して生きている動物であるかを思い知らされる。あれでは、大変で重苦しいだろうに、それだけ人が密集しているという現実か。

 熊田は三階に降り立ってトイレを済ませた。そして、玉井タマリの姿を探す。まったく怪しまれずに社内を歩き回れるのは、ある意味で堂々という気の持ちようかもしれない、と熊田は思い知る。 

 玉井が手を挙げて迎え入れた。社長の引き継いだ仕事の目処はついたのだろうか、熊田は不本意ながらも相手を気遣う挨拶を彼女に会うなり告げた。しかし、小声で言ったので、彼女は聞き取れなかったらしい。聞き返されて、熊田は、二度目の訪問を陳謝した。

「仕事は一つを残して片付けましたので、時間の余裕ならば心配いりません」

 滞在のラウンジに玉井は案内しかけたが、仕事終わりで談話に興じる社員たちがソファを占領していた。そこで玉井は二階仮眠室のフロアの防音室に案内した。そこは、いわゆるカラオケの機器が揃い、ブースは三部屋を完備。室内で大声を出すことがかなりのストレス軽減になるとテレビの情報で聞き流し記憶が記憶に引っかかる。個室の飲食店を思わせる仮眠室の受付で氏名を記入。防音の施設は男女での入室を禁じてる、との受付の対応に、熊田は警察手帳を開示、社内で解禁に踏み切った。むやみに提示してはならない絶大な効果を発揮してしまうために、ここまで抑えていたが、そろそろ応援の警察も到着しそうな気配ではあるのだ。噂も駐車場から伝わっても不思議ではない。受付の女性もわざとらしく手で口元を押さえていたが、彼女だって黙っていられるのは、ビルを離れるまで。誰かに話したくってたまらない、女性の拡散傾向は男性に比べて顕著にみられる。

 私の訪問を誰にも話してはならない、口外は罪に問われるかもしれない。一応厳しい罰則を提示したが、彼女がどこまで従順であるかは、神のみぞ知る。

 受付の右側の通路が仮眠室、短く突き当たりの黒い壁が見える通路に防音室が並ぶ。彼女に続いて室内に足を踏み入れた。ふかふかの絨毯は、毛足が長くて、細かい。針金みたいに直立で毛羽立っていても柔軟に体重を受け入れて、足を離すと、途端にふうわりと元に戻る。風になびく草の生存方法。踏み荒らされてないような踏み心地ち。

 L字型の椅子の角部分が取り払われた形状の椅子。ちょうどその取り払われた場所に出入り口のドア、そして中央に角を落としたテーブル、変則的な八角形だ。ドアと平行に画面とマイクに機材が一式。熊田は奥の画面近くに、玉井は手前に座った。

「犯人に繋がる手がかりが見つかったのですか?」足をそろえて座る玉井から口火を切った。ありがたい。