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手紙とは事実を伝えるデバイスである8-3

「そういった親族関係が理由を含め、社長が後任にあなた指名した。通常ならば、取締役の一人が経営を引き継ぐでしょうに。後に、財産と後任の争いが起きないように取り計らっていたのかもしれませんね」

 玉井は両肩に乗った責任の意味を体感している、単なる適材適所ではなくて、彼女は実力と血縁と会社の混乱すべてのバランスに優れた人材として指名されたのである。おごりに対しては、少々プライドが傷ついたか。そうでもないだろう。起き上がるのも迅速でなければ、社長職は務まるとは思えない。 

 足を組んで彼女は厳しく表情を変えた。「要するに、刑事さんは、私が社長を殺す動機を遠まわしに示唆したいのですね」

「いいえ、そんな。滅相もない。ただ、可能性としては残しておくべきであるとは思います。これまでのどれよりも現場に居合わせた三名よりも有力な候補です」

「はっきりとおっしゃるのですね」口調も変化。社長就任の自信。数分前までは、社長代理を意識。現在、斜めに座る女性は相手を見下してでも自らの領土を広げる、趣に満ち溢れていた。

「午前の時間帯、主に十一時から十二時の間の予定を教えてください」負けじと熊田は揺らぎを垣間見せた彼女の牙城を切り崩しにかかる。

「デスクにいました」

「証明する方は?」

「いません」

「席を外したのは、どなたから連絡を受けたのですか?」熊田は玉井が駆けつけた、社長に死後数時間に発動した連絡の仕組みを正確に聞かされてはいなかったのだ。

「権限のある人物、面識はありませんが、緊急事態を告げるために至急社長室に出向くようにとの通達を端末に直接受けました」

「つまり、三名の発見者が警察に通報、そして管理職にも連絡を、そこから一定時間に応じてあなたに社長代理の権限回った」

「大よそ、その通りです」

「正確ではない部分は?」