「アイラさん、厄介な事件でしたけど、犯人の目的は何を求めた行動だったのでしょうかね?」しみじみとカワニはこぼした、喫煙室の透明な壁と天井の境目を首の角度から、彼が見つめる場所を推考した。灰皿の支柱を避けた彼の両膝が女性特有の仕草と重なる。なるほど、自然の行為が何物にも変えがたく美しい、ということか。
「振り返りますか?はじめから」アイラは言葉を受けた。
「しかし、ブースは」カワニは腕時計で時間を確認。「開けっ放しのままですけれど、それって……」
「何十回、あなたが問いかけたと思います?正確には十三回、九州を発つ新幹線で私の隣へ移り三回、各県のホテルでそれぞれ一回の計五回、こちらへ戻って日に二回が二日、そして今日の一回。散漫な態度はいずれ私に降りかかる、先手を打ちます」
「すいません、どちらがマネージャーかこれでは……」彼女は低音で遮った。
「悲観にくれる暇を現状の改善にあてがうべき。手をこまねいて何も手を打たない、それは無関心と無知と同等のレベル、そう私は受け止める。いいですか、これは私の仮にもマネジメントする立場のあなたが聞きだしたのです、決して、興味本位で私が過去を掘り返していることと受け取らないよう、肝に銘じてほしい。話し好きな人はどこからでも共通の話題を聞きつけて、ブースを訪問しかねませんから」
「肝に銘じます、胸に刻みますよ」カワニが機敏に首を前に傾けた。間を置かず、早速彼は本題を突きつける。「始まりは、佐賀でしたね、海沿いの空港で降りて、レンタカーで会場に向った……」
「どうぞ、遠慮なく不足箇所を見つけてください、質問には応じます」
「十月の初旬でしたね、そろそろ紅葉が終わりかけた時期だったように思います」
カワニの想起は空白だらけで、目も当てられないほど大雑把な描写が続いた。仕方なく、アイラが振り返りを補うついでに語り手を浚った。
思い出す。
初日。
海風が消え去る珍しい、日和だった。