コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

本心は朧、実態は青緑 4

  会場の教会はひっそりと静まり返った姿が通常の佇まいらしく、絶えず人が吸い込まれ吐き出す隣のビルの気配に比べて、どこか死を連想させる。

「アイラさん!電話にも出ないで、どこをほっぽり歩いてたんですか?」カワニの口調は時々文学的な書物しか用いられない表現を使う、現在で言う死語を彼は平気で使う。包み込んだ声が通り抜けるやいなや背後を廻って追いかけ、追い抜く。

「まず、電話に出る約束を交わした覚えはない。さらに、オフの時間における自由について、あなたの監視の下で歩行の禁止も言及されたでしょうか」アイラは肩を竦めた。

「知らない土地ですし、万が一のことだって私はマネジャーですよ、あらゆる事態を想定して動いてるんです。少しはアイラさん、あなたは有名人であることを自覚してくれませんかね、パニックが起きて当然の人物ですよ」

 すれ違う人に顔は見られたように思う、それでも声を掛けられなかった。興味があっても、声を掛けにくいのだろうか。ちなみに、私は現在も電車でスタジオに通う。通勤ラッシュであるために車内で声を掛けることを躊躇った人は多いだろうが、それでも大体同じ時間帯に車両に乗り込み、乗車駅も無論同じだ。つまり、気がつく人物が大勢であっても、彼らが平静を保っていられるのは、声を掛けるのを躊躇しているから、ということが言える。ただ、カワニが必要以上に訴える態度もわからないではない、ここは彼に従うべきだろう、アイラは思う。一般的な感覚を彼に任せてみる、これも実験に加えてみたら……。

 しばらく間をあけて、応えた。「わかりました。以後気をつけます」

「はれ?」カワニは破裂音に寄せた「は」の音を発した。小ぶりな目がより一層丸まる。「……珍しいっていうのは、このことですね、はい。もしかすると」アイラは遮る。

「雷も雹も霰も雪も降りません」

 汗を掻いた、着替えが欲しい。

 アイラは教会内を見渡した。ここに更衣室はなく、簡易なパーテーションで仕切られた区域が着替える空間、スタイリストのアキによってそれは作られていた。彼女が機材を運んだのである、折りたたみ式で持ち運びに適した二枚、それは約二畳分のスペースを遮断する。「アキさんはどちらに?」

「食事ですよ、食事。衣装はいつもの通り用意してあります。僕が、外出の許可を出しました。文句は受け付けませんからね」どこか家族的な、根っこの部分の怒りを取り除いた、彼の主張である。

「ステージで着用しない衣装を買い取ろうと思ったのです」アイラは通路を歩きながら語る、席にカワニが除けた。「二着を汚しては返却に困る。私も一応配慮というものを心がけているのです。これから着替えます、何かライブの変更点があれば、今のうちに聞きますが」