コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

鹿追う者は珈琲を見ず 1

「意思の疎通を図ってるつもりなんだけどなぁ」芝居がかった口調は本心、悪気はなく裏表は同一の形と色。小松原の海外生活が想像される。「あのときにも、そういやあ今とまったく同じことを言われたんだ。思い出した、思い出した」
「あれを思い出したい?悪趣味にもほどがある」室田はお代わりを頼んだ、別の淹れ方を指定する。美弥都の手元はお客から丸見え。
「聞き捨てならないなぁ、今の発言は」小松原は煽るよう高い声で言い返す、上半身を室田の方へ向けて探る視線の首を傾ける。「忙しさにかまけられた僕だから今の今まで忘れられていた、嘘を堂々仰らないでくださいよ。あなたは何度も回想してますって。それにだ、二年前の今日〝あれ〟を目にした者で気あなた一人が体調不良を訴え一目散に警察病院へ担ぎ込まれた。あの場に言わせた人は口には出さなくても、うん、共通した意見だったですよ。あなたが犯人では、とね」
「どういうことよ、それ!」ぱっと、髪が流れた。振り向きに靡く細い解いた植物の繊維質の髪。かすかに明かりの手を借りて黒色のそれは茶色と、色が消滅した白で覆われる。
「舞い戻ってきたことが解せない。ほかにも避暑地はあるでしょうに、何でまたしかも僕みたいに急遽融通を利かせて宿泊を希望したんです?まさかとは思うが、ドライブがてら自慢の車に定期的な負荷をって、内部機構に興味を持ってるとは思えません」
 瞼は閉じて、開く速度はその倍だった。
 室田は代金の清算をチェックアウトのフロントでまとめて支払う注文用紙の氏名欄にサインを書き殴って立ち去る、記入は形式を踏襲した名ばかりの飾り、彼女は腕輪をさりげなくかざしていた、真四角のコードがサービスの受け渡し事実をお客と介する。巷では既にこのシステムは三割ほどに普及率を伸ばす。十年後に八割方日常生活にかかわりの深いサービスに取り入れる、との政府お役人の試算は見誤り、耄碌、愚か、などなど言い表す表現はどれも批判が選ばれる。指針を提示したとしてもその数値が現実とかけ離れたこれまでを見返せば、修正と名のつく代替案を国民は煙に巻かれる、もっともそれほど過去を掘り下げる横暴の暴露に人生をかけるものなどもまた、過去に姿を消した記者の現状を目の当たりにする、その時々の権力者によって国という企業は動き、振り回される国民、これが私たちが住む世界のすべて、といえる。硬貨、の価値など単なる思い込み。それを国にも向けられたと彼女は籍を置く一国の将来を憂いだ。仕組みを知らずに使える、そして使われる未来が憤慨に支配される室田の体の一部と化す腕輪を画面を手首をねじってコードに合わせる動作に合わさったのだ。