コンテナガレージ

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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 8-2

「午後に到着する予定だから、私伝えたから。それととばっちりはごめん」指差し、室田は念を押した。
「お取り込み中のところ大変恐縮な……」
「ちょっと私が話してるんだから順番守ってよ」
「はいっ、申し訳ございません。控えます」
「なんでしょう?」美弥都は山城を優先した。七三に分けた髪型が整う彼が割って入り、進言がある、事態の緊急性を高いと私は判断した。
「午後三時頃を目安に喫茶店を貸しきりたい、とのお客様の要望が入っておりまして、日井田さんの判断を窺おうと……取り込み中でしょうから返答は時間を置いて窺ってもよろしいですし、先方へはこちらに到着した際、お伝えできれば問題はありませんので」
「私遠慮することはないの」室田はタバコに火をつける。彼女はシガレットケースを手にここを訪れた、どぎついピンク色のプリズムがまるで居場所を知らせる合図は段差を降りるたびに当人の存在を不必要だと言いたげだった。意識が通わない手元は美弥都の背後、天井近くの窓明かりを跳ね返す。「そちらとこっちの会話は繋がってる。貸切、宿泊予約とこの人目当ての尋ね人は同一人物ってこと。はあ、せっかくの休暇が子供のお守りで最終日を迎えるとは、高所に堪えてでも、海外を選ぶべきだった。あーさらば、夏休み」
 関係性を理解する山城は二度顎を引いた。「室田孝之様はつまり、お嬢様の身を案じてこちらに来られるのですかぁ」
「あなたが気に病まなくっても、いたずらを働いたのは海里でしょう?親がどうこう口出ししようもんなら、任せなさい、私は擁護してあげる」トラブルを楽しめる人物とは自らに火の粉がかからない状況を瞬時に目測で見極める、室田幸江と出会って最上、本心が露。
「……私には、別の理由が絡んでいると思われます」歯に物が挟まった言い方だった、美弥都と室田が山城を同時に捉えた。「ひとつ内密を約束してください、隠蔽したつもりはないのですが蒸し返されると都合が悪いもので」
「もったいぶらずに」室田が堰きたてる。確かに大勢が知ればそれだけ拡散と誤解、語弊や湾曲した解釈のリスクは高まる。可能であるならば、という彼の心情、ホテル側の立場もわからないではない。が、室田の前で言うべきではなかったとは思う。
「二年前、死亡事件の混乱に乗じて、宿泊客のお子様が一名行方不明になり捜索隊を出動する事態が、はい、起きていました」
「初耳。……まどろっこしわね、だからどうだって訊いてるのよ。気遣いは邪魔だわ」
「お子様の行方は『ひかりいろり』で途切れてました、衣服を、抜け殻のように残して」
「海里が姿を消し去ったかもわからない、一人娘を預けた自分は二の次に」室田は呆れ、天井を仰いだ。窮屈な体勢から声が発せられる。「あなたが出鼻をくじいて。そうでもしなければ、あの人思い込みは延々と続くの」
 到着したら連絡を、と室田は部屋に戻る。山城は迷惑でなければホテルの責任者として立ち会いたい、と許可を願った。二人がよければ、美弥都にそのような権利がいつから帰属したのか、一応許しを与えた。