コンテナガレージ

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追い詰める証拠がもたらす確証の低下と真犯人の浮上 3 駐車場

「席を代わった、ということはありませんでしたか?」
「何のためよ?」山本西條が聞き返す。
「ハイグレードエコノミーフロアへ移動するためです」
「一体何回空港で搭乗から演奏までを繰り返し言わされたと思ってます?これってようは、その間に人が殺されたことを打ち明けてんのと大して変わりないでんしょうよ、刑事さん。だったら何でまた、演奏後のことを聞いて回るのかって思っちゃうわ。納得する答えを用意していないのであれば、ぼくは楽……」種田が遮る。
「単純に聞きそびれていたから。これまでと同じ取り組みで成果が見られなかったのです、別の手を打つことに視点を変えるのが順当な手段。もちろん、事件に直接関わりがないかもしれません」
「移動は無理だよ」miyakoは言い切った。機内の様子を思い浮かべるのだろう、言葉が切れて届く。「運良くフロアをこっそり抜け出て、隠してた凶器を回収したって言っても、持ち物検査で引っかかるんだから。私たちは真っ先に調べられたし、凶器の種類とか形状は何にも刑事さんたちや取調べの時だって言ってこなかった。言えない、言ってしまうと犯人の得なる様なことかもしれないけどね。まあ、凶器が見つかってたとしてもよ、切羽詰っているように思うよね、こうやって私たちを聞きにくるところを見るとさ。あら?うーんと、あれっ、何を言おうとしてたんだっけ……、ほうだほうだ、死体ってのは、ううん?待ってよ……そのう、殺されたのは機内なのですかね?」
「はっきりと言い切れる段階ではない、とだけ言っておきます。言葉を濁すのは、言い訳なのではなく現状の克明な記録、正直な進捗状況。遺体を持ち運んだかどうか、機内で殺害に及んだのかすら判ってはいないのです」
 熊田は腕時計を見た、ほぼ五分が経過した。
「演奏以降、アイラ・クズミさんとは会わなかった」熊田が二人を順番に見つめる。
「会ってません」
「ぼくも」miyako、山本西條はともに否定した。
 miyakoがおもむろに立ち上がる。両手を重ねて頭上に掲げた、仕事前のストレッチ、といった具合か、歌手が発声のために全身の筋肉をほぐす、ラジオも声を発する場には代わりはないのだろう。
 返答を聞く前にノックされたドアが開いた、番組のスタッフらしき男性がmiyakoを呼びにやって来たのだ。控え室に詰め掛けた種田たちに圧倒されつつ、軽妙に表情を崩す、miyakoはそのままラジオの生放送に行ってしまった。ドアが閉まりきる直前、スタッフが私たちの正体を聞いていた。関わる仕事、立場、状況が、普段では聞くことをためらう性格を揺り動かすのかも、種田は考える。そうすると機内では前のフロアに近づく人物は的確に捉えているはずだ、上空一万フィートは異空間そのものである。しかしだからといって、マジックのような死体を荷物棚に登場させる直接の要因だろうか、自らに問いかけると返答に窮してしまう。
 山本西條も退出をにおわせた。はっきりとは告げずに、「まだ聴取を続けるの」、表情で訴えた。止めた動き、固める視線が物語る。
 控え室へ帰る山本西條に種田たちも同行した。通路を一度曲がり建物内を奥に進む、表通りから離れた。
 控え室よりも会議室という表現が適切だろう、深く腰を落ち着ける家具に代わり、こちらは長机と四脚のスタッキングチェアのみである。
「準備があるので手短に」対面に山本西條は浅く腰掛ける、机と体に空間を開けて、足を組む様子が宙に浮いたソールによって知れた。