コンテナガレージ

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白い封筒とカラフルな便箋

 今日から新しい物語を載せていきます。

 

白い封筒とカラフルな便箋

  早朝と夕方に飛び交う雪虫の飛来は、落ち着きをみせた。やっと口を閉ざしての歩行が躊躇なく行える。昨年まで住んでいた土地とは別の世界。大口を開けて歩く人々と感染を恐れるマスク姿が棲み分け、ひしめく。まだまだ、気温は十度前後を保つのに、口々に寒い。ひっきりなしに、この町はいつも不用意で不躾な音声を招き入れるの。手招きをした覚えはない。

 両手には手袋。上半身は薄着といえる。私の体温は高いらしい、周囲を見て思う。あるいはまだ昨シーズンの体調管理が働いてしまっているのかもしれない。身軽なのはありがたい、アイラ・クズミはしみじみと感じる。ただでさえ、担いだギターの居場所は電車内では格好の、中傷の的。着膨れして座席に座ろうものなら目も当てられない。怪訝な一瞥をくれた見限りは大歓迎。十二分にこちらは笑顔でいられ、多少なりとも微笑を返す気構えだって用意してあるのだ。それぐらいの大らかさは持ち合わせている。

アイラの端麗な容姿は、冷たい印象を与える。周囲は表面だけ掬い取るのだから、掛け違えたボタンみたいに、ズレが生じる。もっとも、世界は私の範囲外だ。認識の違いに思い悩む人生の挫折などは一切、彼女には表出しないのだった。