コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

白い封筒とカラフルな便箋

 カワニは腰に手を当てて、じっとこちらを眺めた。見据えたという印象は微量、訴えかける、とも異なる。察して欲しいが正解に近いか……。アイラは張りめぐらせたネットワークに膨らむノードを正解に位置づけ、カワニの態度を把握する。しかし、声は掛けない。優しさであるはずはない。底なし沼に自ら足を踏み入れること、それが最善の選択といえるだろうか。私に到底思えないし、たとえ身近な人物の悲痛な訴えを聞き取っても、要求は常に受け手に向けられる対象行動だ。すべての決定権は受け手に帰属する。動いたら最後、相手だってその気になる、そぶりを見せ付けない、頑なに、私はただ方向性を見せつける。不躾な要求を未然に防ぐ手法というのは、こうした事前の準備に限られるのだ。その対処を反映して、彼女の一貫した態度がカワニの迷いに表れている。ここで寄り添いでもしたら、気を抜いた無防備なとき、餌に食らいつく彼は、船上に引き上げられ釣り人の指を噛み切るかもしれないのだ。

 糸を切る、私の選択はゆるぎない。

 波に揺られ、船に乗っているけれど、ゆらゆら揺れに預けるばかり。

 見当たらない釣竿は探せば見つかるかも。だが私は、ただひたすら対岸まで渡りたいのだ。ここは忙しなく見渡す水平線を望む外洋ではない、内海、もしくは湖。波こそ立つが、目を見開いて、居場所は視認が可能なの。

 まったくもって無意味な推察ではないか、アイラは思考を破棄させた。

 コーヒーを一口含む。熱。淹れたては彼女に不向き。適温まで待つことにしよう、これでマネージャーの要望を私を失うことなく聞き入れる理由が構築でき。

「凄惨な事件、現実を逸脱した殺害現場が、彼らマスコミが追い求める触手の最前線だった」アイラは唐突に話し始める。「めぐり合う者の背後関係がつぶさに調べられた現在は、その価値が彼らの中で高まっているでしょうから、むやみに、そう、油に火を注ぐ行為は控えるべきですよ」

「そこをなんとか我慢をしてですね、公式な発表を……。ファンに向けた呼びかけでも十分です、気持ちを切り替えてはいただけませんか?」八の字の曲がった眉毛。

「私は無事、生きている、息をつなぐ、呼吸の維持に問題はない、とでも言えと?災害に巻き込まれたのではありません」

「しかし、アイラさんを気遣う手紙、封書、メール、事務所の電話がひっきりなし。鳴りでやり止みません、これでは……」

「通常の業務の妨げになる」

「お気持ちは察しますよ、アイラさんの作業を妨げているのは、重々承知。ですが、なんとかこちらの配慮も察していただけると、大変ありがたいのですよ」

「最近結婚されたと、聞きました」

「はっ?ああ、はい。僕の、その個人的なことです、仕事とは切り離してこれからも同様のマネジメントに勤しむ所存です」敬礼、振る舞いは軍人にみえた、アイラはもちろん軍人に会ったことはない。

「おめでとう」

「……」カワニは何度も瞬きをこれでもかとばっさばさ、羽ばたいてしまうぐらいに風を巻き起こしかねない。「あっとぉ、本当にアイラさん……ですか、僕の聞き間違えだったら、飛行機の乗りすぎで耳がおかしくなったのかなあ」