コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

赤が染色、変色 7

 本番五分前、精神を落ち着ける祈りは周囲へのポーズ、平然と振舞う私に感化される連中が何度か不注意によるミスを犯した事例がこのふがいない有様というわけ。楽屋を出たのが、開演十分前である、現在はリハーサル室の控え室で開演を待つ。リハーサル室は会場の名称、ややこしいが、本来のコンサートホールの出番待ちに使われる施設なのだ。

 二件目の事件、あれは少々手際がお粗末に思える。突発的に起きたなにかしらの対処が、大胆な犯行という感触を植え付けられた。バンの逃走は意図的。

 三分前。腰に下げる無線機を通じたスタッフたちは最終確認を互いに取り合っている。スロー映像のようだ、人がぶれる、音声が幾分篭る。無線機の故障か?それとも彼女自身の体調不良か……、立ち上がって状態を確認する。不釣合いな衣装だ、吊りズボンはキャンセルした、アイラの意思とは無関係に事務所の役員が直々に衣装について権力を行使した、とのカワニの、早朝の車内で二言目の発言が影響した。アイルランド調のセーターを上に、下はからし色のロングフレアのスカート、足元は茶色のブーツ。服を季節・暦・ディスプレイに並ぶ先取りのマネキンに合わせる以前に、身体保護機能が身に纏う洋服の本質だ、呆れる。それに加えて演奏しにくい、よくも肘が引っかかるセーターをあてがってくれたものだ、八割の支持率を誇る市場調査よりも私の心眼に軍配が上がり、私が歌い手を続けられていることすら、過去の出来事に抹消してしまうとはな、現場に引っ張り出して客席の放りこむもの悪くない手だ、スタッフに頼んでみようか。

 私の食わず嫌いを変質させる効果を担うのだろう、着飾る衣装にアイラはにじり寄ってみせた、みせてあげたというべきか。満足げな態度を取って、喜ぶのは観客ではない。衣装をあてがうコンテンツの提供側の人種、客商売だ、という認識の低さに、ステージの直前に思い知らされた。

 一分前。ステージ袖に移る。最終確認、キャップを本来とは反対に被るスタッフに黙っていたセットリストの一部を伝えた。わかりやすく残り時間はいつものように陸上競技に用いるセイコーのデジタル時計で残り時間を計る。中間地点を示す曲とラスト前を表す曲目を言い渡す。