もう、よそう。
松田三葉はグッズ販売の開始時間に端末のアラームを、その三十分前にセットした。時間を二度確認する、それから彼女は運転席のシートを倒した。
打ち付ける雨、跳ね返す金属、連続した異なる音階、高低の乖離を転じて規則の出現へ、協和に変遷。
私がより若々しく私を維持していたなら、アイラに私を、私にアイラをと、不遜な考えを起こしただろうか?
問いかけはむなしく、額を覆う右腕、その下の栄養を取り込んだばかりの空洞を通じて、空気と同化した。
煙があればよかった。吐き出す息が水蒸気だったら、固形物だったら、目に見える粒子だったら……。私は神を求めたのかもしれないわ。
寒い、暖房を入れる。半眼でインパネのメーターをチェック、ガソリンを入れないと。
彼女が居座って、免許が欲しくなった。
彼女ならと、運転と車の知識を所有したくなった。
車を買い求めた、手ごろで長持ちしそうな軽自動車を。
今日に備えた、予測外に事態が好転したの、むしろ驚いたぐらい。あるべき姿が、私に微笑んだのよね。
薄い皮膜、雨雲をほのかに照射、割かれた天、馬鹿よね、いつも晴れていたって空を邪険に扱うのに。
運転席、シートの下を探る。靴を保管する空洞があるのだ、煙草とライターを取り出した。旦那には内緒、煙草はほんのたまに、これだって半年以上の前に購入したんだから。
着火、煙をひたひたと灰に流した。
ため息が視覚化。これでいい。
やっと破滅的なアイラに近づけた、かりそめだけど。
形あるものは失う運命。
お願い……彼女は投げかける。
生きる意味を、私に永遠を、彼女を私へ見させて。